第311話 敵なし/蓮
「信じられん! なんだ初日のこの不甲斐ない結果は!」
ヴァルキア帝国軍の大将軍の一人が、自軍に対して怒りを滲ませてそう言う。
ヴァルキア帝国とリュベル王国が同盟を結んで、初の共同作戦である対アムリア連邦との戦争の初日を終えて、軍議が始まっていた。俺はヴァルキア帝国の至宝で、天下十二傑の一人であるキュアレスが指揮する部隊へと配属になっていて、キュアレスの付き人としてその軍議の場にいた。
「思ったより、アムリア連邦もやりおりますな」
「まさかアムリア連邦軍が、ラドルカンパニーから提供された主砲と同等の威力の砲を持っているとは予想外だった」
「確かにそれが計算外だった。もしかして、ラドルカンパニーめ、アムリア連邦にも主砲を提供したのではないだろうな」
「それはありえる。ラドル・ベガは大陸で最も食えない男だからな」
戦争初日の戦果は思わしくないものであったが、ここにいるヴァルキア帝国の大将軍の誰もが悲観的な表情はしていなかった。それは初日では主力部隊を温存していたからだろう。情報ではリュベル王国も主力を温存しているようなので、向こうもまだ余裕であろう。
「このままではヴァルキア帝国軍が舐められるだろう。明日は俺の部隊も前線に出よう」
キュアレスがそう言うと、大将軍の一人が慌ててこう発言する。
「覇王キュアレス殿の部隊が出撃したら、他の部隊の活躍の場がなくなりましょう。ここは先に私の配下の新設部隊を試させてもらえませんでしょうか」
言い方が丁寧だったこともあり、キュアレスはその大将軍の言葉を受け入れた。エクスランダーとしての初戦を期待していたが、まだ俺の出番は後になりそうだ。
「どうした、蓮、出撃できないのが不満か」
軍議が終わり、宿舎に戻る途中キュアレスがそう声をかけてきた。キュアレス部隊に配属される前までは雲の上の存在で、こうやって話すことなど想像もしていなかったが、知り合いなれば意外と気さくな人物であった。
「そうですね、やっぱりエクスランダーとなった自分を早く試したいとは思っています」
「ハハハッ── そうだな。俺もこの新たに得た力をすぐに試したいと思っている。だけど、それは他の部隊の連中も同じだろう。大将軍が言ったように俺たちが出撃したら戦いは終わるだろうからな、ここは別の部隊に活躍を譲ってやれ」
キュアレスが率いる部隊は、エクスランダーばかりの精鋭部隊である。五十機と機数は少ないが、おそらくは現時点でのヴァルキア帝国の部隊の中では、1、2を争う戦闘力を誇っていた。そんな俺たちが出撃したら、アムリア連邦など一溜まりもないだろう。この戦いはニトロルーディアの実践テストの意味合いが強いこともあり、他のニトロ部隊にもその機会が与えられるべきだろう。
「キュアレスさん。天下十二傑の一人として、アムリア連邦の強さをどうみますか?」
俺は以前、アムリア連邦の母体となった東部諸国連合との戦いで敗北を期している。リュベル王国との戦いでもあれほどの負けは経験していないこともあり、大陸でも屈指のライダーであるキュアレスがどうみているのか気になりそう聞いた。
「アムリア連邦の魔導機部隊は恐れる必要がないが、あの主砲は注意するべきだろうな。あれの集中砲火を受ければエクスランダー専用機でも無事ではいられないだろう」
「確かにあれは魔導機より驚異的ですね。第二師団のシュティンガー部隊も簡単に殲滅したそうですから」
「本当は手強い魔導機を相手に腕を試したいが、ニトロルーディアで強くなりすぎた俺たちと戦えるライダーなど、アムリア連邦にはいないだろうからな。それはエリシア帝国との戦いまでお預けだろう」
ヴァルキア帝国屈指のライダーであったキュアレスさんのルーディア値は、ニトロルーディアにより40万を超えている。もはや敵なしとは彼のためにある言葉だろうとすら思える。
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