第300話 都合により

「そんなに遠いところへ行かないといけないのか?」


休暇中に俺の専用機のコアが作られたと聞いて驚いたが、さらに専用機の調整でエーテル濃度の高い場所へと移動したいとラフシャルが言い出した。


「ここでもできないわけじゃないけど、やっぱりエーテル濃度が高い場所の方が都合が良いんだよ」

「そもそもエーテル濃度ってなんだよ」

「魔導機で使用されるエネルギーの一つで、次元を構成する物質の一つだ。魔導機の上位機能を試しながら調整するから、どうしても膨大なエーテルが必要になるんだ。ここだとエーテルの補充に時間がかかりすぎて効率が悪いんだよ」


小さなソーラパネルで充電しながら電化製品を試すより、家でコンセント使って試す方がいいだろうってことか。まあ、理屈は理解した。


「だけど、今、ここを離れて大丈夫なのか? ルジャ帝国の要塞をぶっ潰したばかりだし、報復とかあり得ると思うんだけど」

その問いにはジャンが答える。

「ルジャ帝国との国境には3000機の守備隊が展開しているからな、そう簡単には攻めてこれねえだろ。それに無双鉄騎団、全員で移動する必要もないだろうからな。移動はフガクのみで、ムサシはここに残ればいい」


「確かにそれなら安心だけど、俺以外はここに残っていいんじゃないのか?」

「いや、渚と、リンネカルロも行く予定だ」

「リンネカルロはまだわかるけど、渚も行く必要があるのか?」

「ルーディアコアを作成するのに必要なオリハルコンと鳳凰石がどこから湧いて出たと思ってるんだ」

「それは格安でアムリア連邦から買ったんだろ?」

「確かにアムリア連邦から提供されたものだが、無料で貰った」

「無料だと! 一体どんな魔法使ったんだ!?」

「交換条件を提示されたんだよ。ラネルが渚がクラス3という希少なライダーだとどこかで知ったらしく、それなら渚の力を最大限生かせる魔導機を作りたいと言ってきてな。渚用の新しい魔導機も作る条件で、勇太専用機のコアの分のオリハルコンと鳳凰石も用意してくれたんだ」

「それでいきなりルーディアコアの作成ができたのか。ラネルとしては渚が強くなるのが国益だと判断したんだな。それは分かったけど、そうなると、そこにリンネカルロが入るのがわからなくなるな」

「渚と勇太のルーディアコアを作った余りで、ヴィクトゥルフのコアの生成もしたんだよ。専用機ができるからお前にはもう必要ないだろ? だからヴィクトゥルフをリンネカルロ用に調整することになったんだ」


なるほど、そういうことか。あのヴィクトゥルフを眠らせておくのは勿体無いし、リンネカルロが使うならそれはそれでいいことのように思う。しかし、いつの間にそんな話をしていたんだ。


フガクで、エーテル濃度の高い場所へと移動するのは、俺と渚、それにリンネカルロ、それ以外ではメカニック班が同行する。他のメンバーはムサシを母艦として、ビラルークに残ることになった。


さらにエーテル濃度の高い場所に、アムリア連邦の上位魔導機の製造工場ができることになり、そこで専用機が作られる、練習生の第一陣も同行することになった。


「レジナント大佐も第一陣に選ばれたんだ」

「はい。誠に名誉なことです。まさか自分用の魔導機を作ってもらえるとは」

「それだけの成長があるって判断されたんだろ」

「それもこれも全て教官のおかげです」


後面と向かって礼を言われると照れるな。第一陣にはレジナント大佐以外にも、マルムムとミルムムも選ばれている。残念ながらサトルとぺフーは選考から漏れた。


「教官! 移動中もご指導お願いします!」

「私もお願いします!」


マルムムとミルムムの二人がそう力強くお願いしてくる。どうやら移動中も暇になることはなさそうだ。

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