第299話 戦争準備/蓮

ルジャ帝国の要塞がアムリア連邦の攻撃により一日で陥落した。ヴァルキア帝国としてはとても許せる事態ではないはずだけど、どうやらこれを好機と見ているようだ。


まだ非公式だが、ヴァルキア帝国とリュベル王国の同盟が成立した。それを受けて、ラドルカンパニーからいくつかの技術提供が両国に行われた。その一つはニトロルーディアというもので、なんでもルーディア値を爆発的に増大させるらしい。


すぐにニトロルーディアは軍部に実施されることになった。すぐに大勢のライダーにおこなうには設備の準備が追いつかず、上位ライダーを中心としたエリートに施されることになった。もちろん、エリートライダーの一人である、俺にもニトロルーディアをおこなうように命令が下りてきた。


「大丈夫かな……体に害とかないよいな」

「何心配してるんだよ、蓮。ルーディア値が爆発的に上昇するんだぞ。少しくらいのリスクがあってもいいじゃねえか」

一緒にニトロルーディアを受ける仲間の一人が気楽にそういう。

「馬鹿いえ、ルーディア値が高くなったって、不健康になったら意味ないだろ?」

その言葉に、仲間は呆れたようにこう回答した。

「地球人らしい考えだな。この世界の住人はな、命を削ってもルーディア値をあげたいと思うもんなんだよ」


確かにこの世界の住人ならそう考えてもおかしくはない。地位も名誉もルーディア値次第のこの世界では、人生の全てと思う人間は多いだろ。



ニトロルーディアは一週間ほどで完了した。特に痛いとか苦しいことはなかったが、妙に疲労感がある。恐ろしく疲れて、何もする気力が湧いてこない。


ニトロルーディアの技術者の話では、その疲労感が一時的なもので、すぐに回復するとのことだ。体がおかしくなったかと心配していたが、それを聞いて安心する。


ニトロルーディアの施設を出る時、一緒にそこに入った仲間と再会した。その仲間に声をかけたのだが、彼は虚な目でどこか遠くを見て、俺に気がついてないようだ。時より、うっ……と唸るような声は出すが、まるで廃人のように自我が見えない。


彼を見て思った。やっぱり、ニトロルーディアは危険なものだったのだ。もしかしたら自分もああなってたかと思うとゾッとする。


しかし、結果は俺は勝ち組になった。ルーディア値は12万まで上昇して、軍のトップクラスに入ることになった。ルーディア値の上昇に伴い、新たな魔導機も用意された。発掘されたが、起動ルーディア値が高すぎて動かすことができなかった機体が整備され、新たにエクスランダー専用機として配備された。


一次実施でニトロルーディアをおこなった500名のうち、無事に軍に戻ってきたのは400名ほど。後で聞いて驚いたのだが、これでも想定より損害は少なかったそうだ。ニトロルーディアによって壊れるライダーが出ることを軍は知っていて実施したと考えると、組織の怖さを思い知る。


ニトロルーディアで強化された軍事力を試したいと思ったのか、すぐにルジャ帝国の要塞への報復戦の決定がされた。これまでにないくらいに大規模な軍事行動で、同盟国として、初めてリュベル王国軍もこの作戦に参加することになった。


両軍合わせて魔導機二万機を超える大戦力が、ルジャ帝国へと集まってきた。しかし、ほとんど属国と化しているルジャ帝国は大変である。ヴァルキア帝国軍とリュベル王国軍の両軍の補給などは全てルジャ帝国の負担となり、国家予算の半分が消えたとの噂である。



「蓮。すごい光景だな」

今回の作戦で共に行動することになった新しい仲間が、集まった大軍を見てそう言ってくる。


「そうだな。これだけの魔導機が集まるなんて想像もできなかった」

「それもそうだが、ヴァルキア帝国の魔導機とリュベル王国の魔導機が戦いもしないで並んでいるなんて、少し前までは考えもしなかっただろう」


確かにリュベル王国とは俺も何度も戦ってきた。だが、敵という認識はあったけど、憎む相手ではなかった。こうして共に協力して戦うからには頼りになる仲間だと気持ちを切り替えていた。

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