第301話 エーテル高濃度地帯
アムリア連邦の領土内で一番エーテル濃度の高い場所は、リネア王国の北部、シャルカという地域だった。ラフシャルとフェリの話だと、古代文明時代でもエーテル高濃度で有名な場所だったようで、すぐに候補として名前があがった。
「シャルカってどんな場所なんだ?」
「さぁ、リネア王国って国があるのは知ってるけど、どんな場所かは知らないよ」
食事中にした俺の質問に、渚が答える。まあ、渚が知ってるわけないだろうとは思ったが、他の同席者たちの誰かが知ってるのかと思い聞いていた。
「シャルカは水と緑の豊富な場所で、自分の故郷の近くでもあります。綺麗な湧水は大陸屈指の名水ですからぜひ堪能してください」
そう言ったのは、レジナント大佐であった。
「そんな自然豊かな場所に魔導機工場とは無粋だな」
「工場と言っても、上位魔導機の製造所は工房みたいなところですからね。自然を破壊するようなこともないでしょう」
聞くと、リネア王国の民は自然を大切にする人柄だそうだ。工場の建築はリネア王国の人間が担当しているようなので、無茶な開発はしなさそうである。
「勇太、それより後でヴィクトゥルフの説明をしてくださるからしら」
「え!? 別に説明することなんかないぞ」
「いいから二人で勉強会ですわ。調整前に少しでもヴィクトゥルフのことを知りたいのです」
リンネカルロはそう言うが、本当に何も知らないんだよな。適当に動かしてたし、後半はフェリの言う通りにしていただけだしな。
「もしかして、リンネカルロの目的は他にあるんじゃないの。勉強会だなんて、今まで言ったことないじゃない」
「なっ、なんですの渚。私の向上心を疑ってらっしゃるのかしら」
渚の指摘にリンネカルロはなぜか焦っている。
「それじゃ、三人で勉強会にするか。まあ、教えることはあまりないけど、渚もヴィクトゥルフに乗る機会があるかもしれないしな」
俺の提案に、リンネカルロはなぜか渋い顔をしたが、渚は賛成した。
シャルカはレジナント大佐が言うように壮大な自然に囲まれた、場所だった。大小無数の湖が点在するところで、上位魔導機の工場は、大きな湖の中心にある島に作られていた。フガクは建設中の工場の近くに停泊する。
「魔導機の材料などはすでに全て到着してるけど、工場の建築が遅れているようでうすね」
材料も工場のスタッフや技術者も到着しているようで、大勢が湖の島でテント生活をしていた。俺たちはフガクがあるのでテントで寝泊りする必要ないけど、みんな大変そうだ。
「勇太たちの専用機はフガクで開発するから問題ないけど、練習生たちの機体は工場で開発予定だから、当面は待機になりそうね」
ライザがそう教えてくれる。
「そう言えば、もう俺の機体の開発は始まってるんだよな? ちょっと見せてくれよ」
なぜ隠すのかわからないんだけど、フガクの格納庫内に仕切りが出来ていて、開発中の俺専用機の姿を見ることが出来ない。
「まだダメ! 完成したらパッとお披露目するから楽しみにしてなさいよ」
「なんだよ、そのサプライズは……」
ライザとそんなやりとりをしていると、俺専用機の仕切りの中から人が出てくるのを見かけた。見ると、それはフガクの操縦者のフェスティナだった。
「フィスティナ。何してるんだ?」
「あっ、勇太。いえ、ちょっと勇太の新しい魔導機がどんなものになるか気になりまして……」
「珍しいな、そんなのに興味を持つなんて、それでどんな感じだった?」
「それが幕があってよく見えなかったの。やっぱりズルはいけないわね」
そう言って微笑みながらブリッジの方へと向かっていった。
「幕をかけてて正解だったわね」
「どうしてそんなに隠すんだよ」
「お披露目前にみんな知ってたらサプライズにならないでしょう」
「いや、そりゃそうだけどな……」
何をサプライズに拘ってるか知らないけど、メカニック班から専用機の情報が漏れることはなかった。どっちみち調整しないといけないからすぐに見ることになるのに……。
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