第292話 懸念

ルジャ帝国の要塞から十キロの地点──


新しい魔導機採掘所を確保する為に、無双鉄騎団と練習生部隊、それに採掘所の人員と機材は、一度ここに集結した。


「まずはダミーの採掘隊と護衛部隊を送り込む。敵から攻撃を受けたら、練習生部隊と無双鉄騎団はここから出撃して反撃、そのまま要塞を攻略するぞ」


「敵が攻撃してこなかったらどうするんだ?」

「そうなったら採掘所と要塞の間に砦を作る。砦なんて作り始めたらさすがに邪魔してくるだろうから、そうなったら最初の予定通り要塞を攻略する」

「砦が完成したらしたでOKってことだな」

「そういうことだ。まあ、敵がどう動くにしろ対応は考えている」


抜かりの無いジャンのことだからその辺は大丈夫だろう。


ダミーの採掘隊は、無人の輸送用ライドホバーに、単純な動きをする人形を乗せたものであった。人形は作業などはできないけど、敵の要塞からは何か作業している人間に見える。護衛部隊は先制攻撃を受ける予定で危険なので、俺とロルゴ、それにナナミの三人でおこなうことになった。練習生の一部が志願してきたが、さすがにこれは練習生部隊にはやらせられない。


ダミー採掘隊が予定の場所に到着して作業を始めると、予定通り、ルジャ帝国の要塞に動きがみられた。だけど、まずは様子を見ているのか出撃はしてこない。


「やっぱりなかなか動いてこないな」

「そりゃそうだろう。前の戦いで散々やられてるし、攻撃すれば戦争に発展するのは目に見えてるからな。攻撃してくるなら上に確認をとってからだろうよ」

確かにそうだな。現場の指揮官の判断で動くことはなさそうだ。


ダミー採掘隊が動き始めて数時間が経過しても、要塞からの動きはなかった。このままダミーを動かしていただけでは意味がないので次の行動に移ることになった。


「よし、B案だ。工作部隊を採掘予定地の北に展開して、砦を作り始めろ。工作部隊はダミーじゃないから無双鉄騎団は全員、出撃して護衛にあたれ」


行動が大掛かりになったことで、敵の要塞にも動きがあった。警報が鳴り響き、要塞内では魔導機の準備が始まったようだ。


「護衛の無双鉄騎団が攻撃を受けたら、練習生部隊を出撃させるぞ」


砦の建築に気が付いたようで、ようやく要塞から魔導機部隊が出撃してきた。その数は50機ほどで、国境の境になっている川で停止した。


「まだ、攻撃はしてこないみたいだな」

「ルジャ帝国の上層部は、さらに上に伺いをたてているかもな」

「さらに上?」

「ヴァルキア帝国のことでしょう。今のアムリア連邦とルジャ帝国では戦いにならないほどの国力の差があるからね。そうなると頼りにするのは過保護な親しかいないってことよね」

アリュナの言葉を聞いてゾッとした。ヴァルキア帝国ってかなり大きな国だよな……そこと戦争になって大丈夫なのか!?


「ちょっと待て! そうなったらヴァルキア帝国とアムリア連邦が全面戦争になる可能性もあるってことじゃないのか?」

「そうはならねえよ。まあ、助けを求めても、親のヴァルキア帝国は強国リュベル王国と常に睨み合ってるから、アムリア連邦ほどの大国と事を構える余裕はないんだよ。まあ、結果は多少の援助をルジャに送って終わりってとこだろうな」


ヴァルキア帝国とリュベル王国の図式は大陸中の常識みたいで、みんなジャンと同じ意見だった。だけど、なんかスッキリしないんだよな……昨日までの常識が明日になっても当たり前のことだと思うなって、誰かに聞いたことがある。そう考えたら、ヴァルキア帝国が本腰入れてアムリア連邦と戦争する気になってもおかしくないと思うんだけどな。


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