第289話 遠隔操作

フガクの格納庫で知らない女性に声をかけられた。薄い水色の長い髪の、北欧にいるような美人さんで印象的な顔立ちをしている。一度見れば忘れることはなさそうだけど、見覚えが無い。

「勇太、ちょっと手が離せないからそこのスパナとって」

「……これ?」

「ありがとう」


近くで見ても思い出せない。誰でしたっけと聞くのは失礼だろうか……作業着にライザのかぶっているような帽子をしているので、もしかしたらメカニックの新人かもしれない。そう思った俺は近くにいたライザに聞いた。


「おい、ライザ」

「何よ、勇太。忙しいんだから声かけないでよね」

「あそこで作業してる女の子だけど、誰だ? もしかしてメカニックの新人か?」

「え? 誰のこと?」

「ほら、あの子だよ」

ライザは作業を中断して俺の指さす方向を見た。

「誰よあの子」

「なに! ライザも知らないのか!?」

「初めて見るわよ」

「ちょっと待て、ということはもしかして不審者か?」

俺がそう言うと、ライザもその可能性を感じたのか焦り始めた。

「ちょっとダルムとバルムを呼んでくる」

確かに双子のマッチョなら、あの女の子が凄腕の暗殺者でもなんとかしてくれるだろう。そう思ったが、よくよく考えたらちょっとおかしいぞ。不審者にしては堂々としているし、俺の名前を知っていたんだよな……ここは思い切って誰か聞いてみよう。


ちょっと勇気を出してその女の子に近づいて話しかけた。

「あの……どちらさんでしたっけ?」

「あっ、ごめん、今手が離せない。それより、勇太。ちょっとラフシャル呼んできて貰っていい?」

ラフシャルも知っているとなると、いよいよ状況が飲み込めないぞ。しかし、聞き直す勇気もなく、俺は言われるままにラフシャルを呼びにいった。


「ラフシャル。知らない女の子が呼んでいるんだけど」

そう言うと、ラフシャルはわかったとだけ言って、女の子のところへ向かう。いや、あの子のこと知ってるなら説明してくれ。


「ラフシャル、ここのエレメンタルラインの接続部分だけど、量産化するなら、形状を半円に変えた方がいいんじゃない。その方がかなり生産スピードをあげられると思うわよ」

「確かにそうだね。わかった。設計図を描き直しておくよ」


女の子がラフシャルに意見をできるに驚いた。知識や技術でラフシャルと対等に話ができるメカニックは誰もいないはずだけど……いよいよ謎は深まっていた。


「どうしたんだ、ライザ、ダルム、バルム。そんなに血相変えて」

ラフシャルが、ライザたちにそう指摘する。双子は不審者と一戦交える覚悟できたのか、大きなスパナを手にして構えていた。


「不審者がいたので……師匠、大丈夫ですか」

「不審者? どこにいるんだ、そんな人物」

「そこに……」

そう言って知らない女の子を指さした。それを見たラフシャルが大きな声で笑いだした。女の子もクスクスと笑っている。

「ごめん、そう言えば説明するの忘れてた。彼女はフェリだよ」

「ええええ!! フェリってあのフェリ! そうなのか! でもその体はどうしたの!」

驚いた俺はそう聞いた。

「これはホムンクルスの技術を応用して作った疑似体だよ。本当の肉体じゃないんだ。しかも魂が入っているわけじゃないから、正確にはフェリじゃないんだけどね」

「魂が入ってないって?」

「フェリの魂は今まで通り、思念球の中なんだけど、遠隔操作でこの体を操作できるようにしたんだ。ちょっとやらなければいけないことが多すぎて、僕のキャパを大きくオーバーしてるからね、苦肉の策で作ったんだ」

どうやらラフシャルが自分の仕事の手伝いをさせる為に、フェリに遠隔操作できる肉体を作ったみたいだ。


「ラフシャルが話くらいしてると思ってましたよ」

フェリが呆れたようにそう言う。遠隔操作で表情も表現できるんだと感心する。

「いや、説明しているつもりだったんだけど、そういえば言った記憶がない」


ラフシャルはちょっと忙しすぎて混乱してたようだ。ちょっと休んだ方がいいんじゃないかと心配になってきた。

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