第288話 量産型魔導機

ラネルが連邦政府の要人を引き連れて、ビラルークへとやってきた。久しぶりにみるラネルは国家元首として威厳というか風格があがっているようにみえた。


「勇太さん……」

俺を見つけたラネルは照れたようにそう言ってきた。

「よう、ラネル。元気そうだな」

「勇太さんも元気そうでよかった」


ジャンが俺に小声で、交渉のことを話せと言ってくる。自分で言えばいいのに……仕方ないので量産型魔導機の提案などの話を簡単に説明して、ジャンが交渉したいと言っていると伝えた。

「量産型魔導機ですか、確かに興味深い話ですね」

「ジャンが金儲けで言ってるだけじゃなくて、技術提供はしっかりしているから悪い話にはならないと思うよ」

「わかりました。ビラルークにいる間に時間を作りますのでお話をきかせていただきます」

ラネルは笑顔でそう言ってくれた。


「ラネル連邦首相、お時間です」

お付きの人にそう言われると、残念そうに頷いた。

「それでは勇太さん。また、お時間ができた時に」

「ああ、それじゃ、無理するなよ」

俺がそう言うと嬉しそうに微笑んだ。


翌日にはまたラネルと会うことになった。しかし、そこは公の場で、個人的な話をする時間はなかった。ラネルは他の要人たちと一緒に、軍事強化の成果を見学する。


用意されたのはサラマンダー主砲を搭載したライドキャリアが十隻。それがビラルークの荒野に展開する。攻撃目標は、古くなって遺棄される予定になっていた大型ライドキャリアであった。


「各ライドキャリア、主砲発射準備──」

ジャンの掛け声で、各ライドキャリアのサラマンダー主砲の周りで慌ただしく動き始める。ラフシャルが簡単に扱えるようにと開発した魔導砲弾を、数人の砲兵たちが砲門にセットする。セットし終わった合図なのか、砲兵の一人が赤い旗をあげた。


すべての砲兵から旗があがったのを確認すると、ジャンが大きな声で号令した。

「目標は前方のライドキャリア! 全砲門狙え!! ──発射!」


轟音が鳴り響いて、全てのサラマンダー砲門から炎が吹き出した。そして炎に包まれた砲弾が凄い勢いでターゲットのライドキャリアに向かって放たれる。


命中した砲弾は、爆炎を噴き出しライドキャリアの外壁を吹き飛ばす。一隻、二門の主砲砲門。十隻、計二十発の魔導砲弾は全て命中して、ターゲットになったライドキャリアを無残な残骸へと変えた。


それを見ていた連邦の要人たちが歓声をあげた。今までみたこともない威力に、巨大な力を感じたのか、その表情は歓喜に震えている。


さらにライダーたちのルーディア値の上昇報告などを聞いて、満足は頂点に達したようで、その後にラネルが提案した量産型魔導機のプレゼン会議を反対する者はいなかった。



「量産機と言っても、性能は現在使われているトリプルハイランダー専用機と同等の能力があります」

ジャンの説明に、要人の一人が質問する。

「なんと! しかし、それほど高性能な魔導機なら、起動ルーディア値が高くなるのじゃないのかね」

「いえ、起動ルーディアは一万までに抑えています。それでこれほどの能力を引き出しているのです」

「ハイランダー機か……それでは量産機としての機能を発揮できないのではないか?」

ジャンはその質問に大きく頷いた。

「こちらをご覧ください」

そう言ってジャンが大きなスクリーンに映し出したグラフを見せた。

「これはルーディア鍛錬装置を500台に増やし、連邦軍ライダー二万人に鍛錬を実施した場合の、ルーディア値の平均伸び数をグラフにしたものです。みてください、半年ほどで全体の八割ものライダーが一万を超えています」

グラフでわかりやすく伝えたことで、要人たちはすぐにその効果を理解した。

「なんと……それでは問題ないということなのだな」

「はい。全て私たち無双鉄騎団にお任せください」


ちょっと商社マンのような感じになってきたが、ジャンの提案を反対する者はいなかった。このプレゼンにより、軍事強化の予算は1000億まで引き上げられ、俺たちへの報酬は二倍に増えた。

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