第285話 極秘会談/蓮
東部諸国連合との戦いで大敗を喫した特殊魔導機部隊【闇翼】はその責任を取らされ解体された。俺は新しい部隊に配属になっていた。新たに赴任した配属先は、ヴァルキア帝国皇太子の護衛隊で、エリート部隊の一つであった。
「今日の仕事、極秘の護衛任務と聞いたけど、皇太子はいったい誰と会うんだ?」
「極秘の任務なんだから俺が知っているわけないだろう。まあ、どこかの大貴族か有力組織のお偉いさん、だろうがな」
護衛隊の先輩二人がそんな会話をしている。公の職務がほとんどの皇太子に、極秘の会談自体が珍しいそうで今回のようなケースはまれのようだ。
「全員、整列! 皇太子殿下に敬礼!」
ヴァルキア帝国のマクロバヌ皇太子が、皇家専用ライドキャリアに搭乗する。五人の屈強な側近と、皇太子と親し気に話す武人を連れている。皇太子は初めてみるが、あの武人は知っている。ヴァルキア帝国の両翼の一人、天下十二傑の一人である覇王キュアレスだ。
「キュアレスよ、お前の魔導機、チェルノボグを本当に持っていかなくてよいのか?」
皇太子の言葉にキュアレスは笑顔で答える。
「会談の場に、私がチェルノボグを持って現れれば相手はどう思いますかな」
「天下十二傑のお前が、自分の魔導機に乗っているだけで相手は恐れるだろう」
「そういうことです。今回の会談は帝国の今後を左右する大事なもの、絶対に成功させる必要があります。その為には多少の危険があっても相手の信頼を勝ち取るのを優先するべきです」
「ふっ、帝国最高のライダーにして随一の切れ者といわれるだけはあるな」
「いえ、帝国最高のライダーはダーレス殿ですよ」
「まあ、どちらが上かの議論は今はよかろう。俺はお前が一番と思っているだけのことだ」
帝国最強のライダーはキュアレスか、もう一つの片翼であるダーレスかという議論は、ライバル国であるリュベル王国の悪口と同じくらいに国中で語られる議題であった。皇太子はそれを知っていて皮肉った言い方をしたようだ。
それにしてもヴァルキア帝国の皇太子がそれほどまでに会談を成功させたい相手とはいったいだれなのだろうか……護衛隊の仲間たちの間では、密かにそれを予想する話でもりあがっていた。
「俺の予想はラドルカンパニーの重役の誰かだろ思っている」
「ありえるな。強力なライドキャリアの砲門を開発したとの話もあるし、リュベルの獣魔導機に対抗するには、ヴァルキア帝国にも何か強力な兵器が必要だろう」
「確かにな、最近でも獣魔導機に北部方面軍がボコボコにやられたそうだしな」
「エリシア帝国はどうだ。最近、皇帝も変わったし、あそこもなにやら動きが活発だぞ」
「エリシアとヴァルキアは敵対こそしていないが、昔から干渉せずがお互いの意識にあるようだからな、皇太子がわざわざ会談する可能性は低いだろう」
「蓮、お前はどう思う?」
いきなりそう聞かれたが、俺は転移者で、昔からこの世界にいるわけではない。詳しい情勢や常識も完全に把握しているわけないので、適当に答えた。
「リュベル王国の誰かと会うんじゃないのか」
それを聞いた仲間たちはこれ以上ないくらいに笑い始めた。
「馬鹿を言うな、いくらなんでもそれはありえない。リュベルは古くからの因縁のある敵国だぞ。捕虜交換や、一時的な休戦協定などの話はあっても、極秘の会談なんてあるわけない」
いや、驚くような相手を想像しただけなのだけどな……そんなに笑わないでもいいじゃないかとちょっとムッとした。
皇家専用ライドキャリアは魔導機30機が搭載できる大型のライドキャリアだ。相手を刺激しないようにキュアレスの魔導機は持ち込まれていないが、皇太子の護衛には抜かりはなく、ハイランダー以上の魔導機がフルに搭載していた。
会談場所に到着すると、全ての魔導機が出撃して、周囲を警戒する。しばらくすると、会談の相手だろうか大型のライドキャリアが近づいてきた。
「嘘だろ……あのライドキャリアは……」
仲間の一人が、護衛隊の専用通信でそう呟く。
「蓮、お前の一人勝ちのようだな。仕事が終わったら高い酒を奢ってやるよ」
そう言ったのは護衛隊の隊長だった。誰のライドキャリアかは分からないが、あの紋章は軍で習った記憶がある。確かリュベル王国の王家の紋章だ。
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