第284話 指導風景

レジナント大佐は練習生の中でも実力も実績もある上位のライダーだったようだ。それを倒した俺に対して、練習生たちの見る目が明らかに変わった。


「教官! ぜひ、私にもご教授お願いします!」

「自分にもお願いします!」


清音があの天下十二傑の剣皇だと知ると、俺以上に人気を集めた。ライダーたちにとって、天下十二傑は尊敬と憧れの存在のようで、群がるように教えを乞う。


実際に指導を進めると、アリュナや渚の実力も理解してきたようで指導に当たる俺たち四人の言葉を真剣に聞くようになった。


やはり指導に慣れていない俺が、一番教えるのが下手のようだ。弟子がいる清音はもちろんのこと、後輩の剣闘士の指導経験のあるアリュナや、自分の家の道場で年下の門下生に指導していた渚も教えるのが上手い。


さらに指導が進むにつれて、学びやすい教官に気が付いてきたのか俺以外の三人に人気が集まるようになっていく。いや、待てよ……もしかしてだけど、どうせ指導されるなら、むさい男より綺麗な女性の方がいいとでも思っているんじゃないだろうな……指導は、魔導機に乗っておこなうこともあるけど、ほとんどは生身でしている。そう思って練習生の表情を見るとあきらかにデレデレしている奴がいるのが気になり始めた。いやいや、誰が見ても美人である清音やアリュナならわかるが、あの渚も人気があるから気のせいだろう。そう思い直して、俺に指導して欲しいと集まってくれた練習生に向き直る。少ないが、俺にも五人の練習生が指導を希望してくれた。そのうち二人は少ない女性の練習生で、マルムムとミルムムという姉妹なんだけど、この二人、かなり筋が良い。教えたことをどんどん吸収して、みるみるうちに成長していた。


「教官! もう一本、お願いします!」

「私も、もう一度、お願いします!」


さらに姉妹はやる気もあって人一倍努力してくれる。二人ともハイランダーだし、連邦軍の有力なライダーになると俺は予想した。


「教官! 自分にもご指導ください!」

さらにあのレジナント大佐も俺に指導を希望していた。彼は俺に負けたことで力を認めてくれたようで、素直に指導に従ってくれる。成長したい気持ちは誰よりも強いようで、どんなことも一生懸命に取り組んでくれた。ただ、姉妹ほどの筋の良さはなく、少し不器用に感じた。


俺の指導を受けている残りの二人は、大男のペフーと馬鳥まとりサトル。名前ですぐわかったけど、サトルは俺と同じ日本人だった。二年前に転移してきたそうで、転移順では俺の先輩になる。


「勇太くんは凄いな。僕より後から転移してきたのに、こんなにも成長してるなんて」


サトルは真面目で控えめな性格のようで、話し方も丁寧だ。彼はハイランダーなので、今まで少なからず、ちやほやされてきたと想像できるけど、その性格は変わることはなかったようだ。


大男のペフーは、どうやら女性が苦手のようだ。それを聞いて、俺に指導を希望した理由がわかった。


清音たちは何十人も指導していて大変そうだ。俺は教えるのに慣れていないから、結果、五人くらいが丁度いいのかもしれない。


「教官はお若いのに、どうしてそれほどの技量をお持ちなのですか?」

訓練の休憩中に、ミルムムが聞いていた。

「いや、多分、教えてもらった師匠に恵まれていただけだろうな」

「師匠とはどのような方なのですか」

「剣聖て呼ばれてるらしいけど、知ってるかな」

「け、剣聖! 教官は剣聖ヴェフトのお弟子さんなのですか!」

「ミルムム。教官のお一人の清音さんもお弟子さんよ。しかも娘さんだったと思うわ」

マルムムは清音のことをよく知っているようで妹にそう説明する。


「まさか教官が剣聖のお弟子とは、初日での無礼な発言が恥ずかしくなります」


レジナント大佐は恐縮したようにそう言う。もう、完全に俺の事を認めてくれたようで、本心からそう言ってくれている様だった。

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