第283話 学ぶ戦い
俺に用意された魔導機は、ポーンの名称の汎用機で、起動ルーディア値1500で低出力の凡機であった。それでも軍用機なので、剣豪団で使っていたナマクラよりは随分マシである。
レジナント大佐は自分の黄色い魔導機に乗り込んだ。軍担当の話だと、ダブルハイランダー専用機のオルトロスという名称で、攻撃性能に優れた優秀な機体だそうだ。確かに鋭角で鋭いフォルムは攻撃的な印象がある。
レジナント大佐は武器に攻撃力のある大剣を選んだ。俺はポーンの非力さを手数でカバーする為に軽い短剣にした。大剣の攻撃を短剣で受けるのはきつそうだけど、面白みはありそうだ。
「教官、よろしくお願いします」
「まあ、模擬戦だ。楽しくやろう」
レジナント大佐は楽しむ気はないようで、俺を倒すことだけ考えているようだ。勝とうという気持ちは大事だが、それだけを考えていると学ぶのがおろそかになる。楽しむことで得られることもあるだろうし、模擬戦くらいは戦いを冷静に分析するくらいの余裕を持って臨んだ方がよいと思う。まあ、偉そうに考えているけど、全部オヤジの教えなんだけどな。
「開始!」
審判をする清音の声が響く。それまで沈黙していた訓練生たちも、戦いが始まると思い思いの気持ちを声に出しはじめた。もちろん、部外者である俺を応援する声はなく、レジナント大佐に対するものばかりであった。
レジナント大佐は大剣を大きく振りかぶり攻撃してきた。少し機体の立ち位置を変えるだけでその攻撃を避ける。大剣は地面にめり込むほどの威力で、まともに受けたら一溜りもなさそうだ。
攻撃を避けた同時に短剣でオルトロスの右肩を素早く斬りつける。カチンッという乾いた音がして命中するが、機体を破損させるほどのダメージは与えられない。
レジナント大佐は大剣を振りかぶり、次の攻撃をしかけてくる。後ろに飛びその攻撃も避ける。しかし、後ろに飛んで避けるのを予測していたのか、大きく踏み込んで追撃してくる。その攻撃は短剣を使って受け流す。攻撃の軌道を変えられた大剣は地面を強く叩く。その隙に素早く切り返して、もう一度オルトロスの右肩を狙って短剣で斬りつける。最初の攻撃より良い感じで振り抜けたのが良かったのか、カキンッとさっきより大きな音が響いた。
「くっ……ちょこまかと!!」
少しイラついてきたのか、レジナント大佐は、がむしゃらに大剣を打ち付けてくる。こうなったらこっちのペースだ。力強いが、遅く鋭くもない攻撃をひょいひょいと避ける。避ける度にカウンターでオルトロスの右肩に一撃を与える。それをく繰り返しているうちに、びくともしていなかった右肩に亀裂が入った。
「なっ!」
ひびが入った時の破裂音に驚いて動くが止まる。俺は力を込めた一撃を放った。バキンッと鈍い音がして、オルトロスの右肩が粉砕した。
肩を破壊され、右腕がだらんと垂れ下がって動かなくなる。大きな大剣を片腕で振るうのは難しい。あきらかに剣速は遅くなり、さらに避けるのが楽になる。
「片腕だけでもまだ戦える!」
レジナント大佐はそれでも諦めることなくがむしゃらに攻撃してくる。次はカウンターで左肩を狙った。レジナント大佐の攻撃を避ける度に左肩に一撃を与える。右肩より早く左肩は粉砕された。左手から大剣が力なく落ちる。オルトロスは戦う術を失い上空を見上げた。
「勝負あり!」
試合続行不可能とみて、清音が試合と止めた。それを聞いて、レジナント大佐は項垂れて膝をつく。
倒すだけなら一閃で早々にかたをつけてもよかったけど、この戦いには技術の鍛錬次第では、高いルーディア値の相手にも勝てるというところを見せたかった。今の戦いを見た練習生たちが、自分も技術が向上すれば強くなれるって思ってくれればいいのだけど……。
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