第286話 犬猿の会談/蓮

相手のライドキャリアからも多くの魔導機が出撃してくる。会談とはいえ、相手は敵国の王族だ。護衛隊に緊張が走る。


誰かが相手の魔導機を攻撃すれば、この場は戦場と化すだろう。さっきまで無駄口をたたいていた仲間たちも押し黙って相手の動きに注意を向けていた。


両国の魔導機に囲まれた中心部分に、会談の席が設けられた。そこに、マクロバヌ皇太子とキュアレスがつく。さらにリュベル王国のライドキャリアから、二人の人物が歩んでくる。今回の会談相手なのだろう、二人は、マクロバヌ皇太子たちに向かい合って席に座った。


やはり会談内容がきになる。俺は外部音を最大限にして会談の内容に、聞き耳を立てた。


「こうして貴殿と話をする機会がくるとは夢にも思いませんでした」

「私も想像すらしていませんでしたよ。こうして実際にお話をしていても、どこか現実ではないのではないかと思うほどです」

「ハハハッ。しかし、これは現実です。現実的な、これからのお互いの国の為の話をするとしましょう」

「そうですね。今日が歴史的な一日になる、そんな話になることを願っております」


俺は会談席の近くに配備されているので相手の顔も良く見えた。会談相手の一人はあきらかに身分が高そうな若い人物で、もう一人は屈強な軍人にみえる。誰かわからなかったけど、それを知っている仲間が教えてくれた。

「会談相手がレイオン王太子と、リュベルの魔神ケイマイオスとはな……魔導機にも乗らず、覇王と魔神が対峙するとは誰が想像できるかよ」

「やはり、レイオン王太子なのか! まさかとは思ったけど、そこまでの大物かよ」


護衛隊の仲間だけが聞ける通信だから大丈夫だろうけど、皇太子の側近にでも聞かれたら余計な話をするなと怒られるだろう。


「それで、レイオン王太子、早速ですが本題に入りましょう。例のエリシア帝国の話は聞かれましたかな」

「はい。【エリシア十軍神】なる存在ですね。なんでもルーディア値が十万を超える連中だそうですな。まさか本当の話でしょうか」

「我々の調べでは、事実の可能性が高いとの結論です」

「しかし、そんなルーディア値の連中がいたらもっと前から世にでているのではないのですかな」

「ルーディア値は強化できるとの情報も入っているのです」

「まさか! ルーディア値は生まれ持っている固定の数値! 強化できるなどあるはずが……」

「いえ、これは事実です。すでに我々はニトロルーディアという技術の存在を確認しているのです」

「ニトロルーディア? それはいったい……」

「それはまだわかりません。しかし、ニトロルーディアの技術を提供してもいいと言っている人物がいるのです」

「まさか、誰ですかそれは、エリシア帝国からの亡命者か何かですか」

「ラドルカンパニーですよ。ラドル・ベガが私に直接、言ってきたことです」

「ラドル・ベガと会ったのですか!」

「いえ、話をしただけです。誰もあの謎の御仁には会うことはできないでしょう」

「マクロバヌ皇太子。少し、わからないことがあります。どうして、敵国であるリュベル王国に、こんな非公式な会談までして、そんな重大な情報を教えてくれるのですか?」

「それが、ニトロルーディアの技術を得る為の条件の一つだからです」

「条件とは?」

「ヴァルキア帝国とリュベル王国の同盟ですよ。二つの国が手を組み、エリシア帝国と対するというのが、ラドルカンパニーの望みです」


レイオン王太子は言葉がでなくなるほど驚いている。何をどう言えばいいのか言葉にできないようだ。

「まさか……三強国の二つが手を組むということですか……」

「そうです。そうしなければいけないほど、エリシア帝国は力を持ってしまったということです。このままではこの大陸はエリシア皇帝のものになってしまうでしょう」

「フフフッ……想像していたより大きな話だ! なんともこれだから人生は面白い! いいでしょう! 王を説得してみましょう! ヴァルキア帝国とリュベル王国が手を結べは敵などいない!」


「レイオン王太子ならそう決断すると感心していました。だから私は最初の会談に貴殿を選んだ」

「それは正しい判断だったでしょう。いきなり王にこの話をしていたら、おそらくうまくはいかなかったと思います」


自分の決断が正しかったことを確信して、マクロバヌ皇太子は不適な笑みを浮かべる。それを見て、レイオン王太子が尋ねた。

「もし、本当に同盟が実現したら、あのエリシア帝国と戦うことになるのですね」

「はい。ですが、エリシア帝国より先に片付けなくてはいけない目障りな国があります」

「確かにありますな……小物が多く集まっただけで大きくなったと勘違いしている滑稽な奴らが……」

「そう、エリシア帝国より先に、アムリア連邦を葬り去ることになるでしょう」


アムリア連邦とは旧東部諸国連合のことだよな。そこには俺も借りがある……汚名をそそぐ、いい機会が訪れることを願った。

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