第279話 貴重な報酬
「ラネル、久しぶりだな」
「勇太さん……よかった、無事だったのですね」
フガクの自室から、俺はラネルに通信を送った。忙しい中なので、いるかどうかわからないかったけど、彼女はすぐに返答してくれた。
「久しぶりにこうやって話すのに変な話をして悪いんだけど、アリス大修道院ってとこ知ってる?」
「はい。もちろん、有名な中立組織ですから知っていますよ。それがどうかしたんですか?」
「実は縁があって、今、アリス大修道院の本院にいるんだ。そこでちょっと困ったことになってるんだけど──」
俺はアリス大修道院がヴァルキア帝国、リュベル王国から不当な侵攻を受けている話をした。彼女は国家元首として責任ある身で、私情だけでは動くことはないと思うけど、気持ちに訴えかけるように説明した。
「絶対中立の組織に、力で従わせようと武力侵攻するなんて言語道断! 絶対に許せない行為です! わかりました。私の一存だけで決められる案件ではありませんが、明日にでも連邦議会を招集して対応を検討いたします」
「ラネル、ありがとう。ごめんな、私的な通信でそんなお願いして……」
「いえ、勇太さんが私を頼ってくれただけでも嬉しいです」
頼ってくれただけで嬉しいと思ってくれるとは、なんといい友達なのだろうか。俺も彼女が頼ってきたら喜んで力を貸そうと思った。
ラネルは言葉通り、すぐに連邦議会なるもので議題にしてくれたようで、正式にアムリア連邦がアリス大修道院の支援に名乗りを上げた。取り急ぎ、アリス大修道院の防衛の為に一軍が派遣されることになったので一安心である。
「勇太様にはなんとお礼を言えばいいのか」
マザー・メイサは恐縮したように丁寧に俺に礼を言ってきた。
「礼を言うなら、実際に支援を決めたアムリア連邦にしてくれればいいよ」
「もちろんアムリア連邦にも感謝しております。ですが、勇太様には返せないほどのご恩を受けました。アリス大修道院は古いだけが取り柄の非営利組織ゆえに大したお返しができないのが心苦しく……そうだわ、シスター・ミュージーこちらへ」
そう言ってシスター・ミュージーを呼んだ。
「どうか、シスター・ミュージーをお連れ下さい。アリス大修道院からのせめてもの気持ちです」
どういうことか理解できなかったけど、シスター・ミュージーをお礼にくれると言っているのだろうか? シスター・ミュージーは自分が差し出されたにもかかわらず、明るい表情でお辞儀をした。
「よろしくお願いします、勇太様」
そのやり取りを聞いていたアリュナが怒ったように指摘する。
「ちょっと待ちな! 勇太は女には困ってないよ。そんな礼なんていらないよ」
困っている困ってないは別として、シスター・ミュージーを貰ってもそれはそれで困る。
「あっ、説明不足で申し訳ございません。シスター・ミュージーをご同行させるのは、なにも彼女に奉仕をさせる為ではございません。それよりもっと価値のあるものの為です」
「価値のあるもの?」
「はい、それは情報にございます。アリス大修道院に集まる大陸中の情報を、シスター・ミュージーを通して、勇太様に提供したいと考えております」
「そりゃ、すげー報酬だな。勇太、ありがたく貰うことにしようぜ」
ジャンはその価値にいち早く気がついたようだ。即断でシスター・、ミュージーを受けれいることに同意した。
確かに大陸中の情報を得られるのは助かる。フガクの部屋も余っているし、断る理由はなかった。
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