第278話 思惑の交差/渚

もう少し勇太と話をしていたかったけど、リンネカルロやアリュナに拉致されて地下の温泉へとやってきた。男女入れ替えで、ようやく女子の番になったタイミングもあって、大勢の女性が使用していた。


「渚って残念な胸してるわね」

ぐっ……痛いとこを躊躇なく指摘してくるわね。

「やっぱり女性として、これくらいのボリュームがないと心細いわよね」

アリュナはそう言って威圧感すらあるその胸を私に見せびらかす。


「大きいだけで良いなら乳牛の乳で十分ですわ。やっぱり大きさと形を兼ね備えた美しい胸でなくては殿方は喜びにならないですわよ」

「なんだい、リンネカルロ。私の胸が乳牛と同じとでもいいたいのかい」

「あら、同じとは言っていませんわよ。ただ、ねえ……あなたもそう思うでしょ」

リンネカルロは横で服を脱いでいたエミナに同意を求める。

「私に振らないでよ。胸なんて大きくても小さくてもどっちでもいいでしょ」

そう言うエミナの胸は、平均的なサイズで形もかなり良く、胸が小さいといった悩みはこれまで感じてこなかったであろうことが予想される。そんな人から大きくても小さくてもどっちでもいいなんて言われても説得力はないと思う。う~ん……ちょっと拗ねた考えをしてしまった。


「みんな、いつまでも裸で喋ってないで早く温泉に入ろうよ」

そう言うナナミの胸に自然と目がいく。下には下がいると安心する自分に腹が立つ。


温泉に入っても、胸の大きさ云々の話は終わらなかった。リンネカルロが顔を真っ赤にしてこう聞いてきた。

「それで、渚。一番重要な事を聞きますけど……ゆ、勇太はどんな胸が好みなのかしら」

「勇太の胸の好みなんって知らないわよ」

「あら、幼馴染みなのですから、少しくらい予想できないのかしら」

ちょっとイラっとしたけど、幼馴染みのくせにと思われてはしゃくだ。記憶を総動員して、勇太の胸の好みを予想する。

「もう……しいて言うなら、どんな胸でもいいと言うんじゃないかな、大きくても小さくても誰の胸かってのが大事だっていいそう」

それを聞いたリンネカルロは納得したのか何度も頷きながらこう言った。

「そう、なら問題ございませんわ」

「確かに、勇太ならそう言いそうだけど、本音はどうかね。やっぱり大きいのが好きだと思うわね」

アリュナはどうしても勇太の好みが大きい胸だと思いたいようで納得していない。確かに一番の巨乳だからそう思いたいのはわかるけど……。


それにしても、あの勇太がここまでモテてるとは世も末ね。あんな鈍感、風船男のどこがいいのだろうか。まあ、同類の私が言っても説得力はないけど。


「みんな、楽しそうね。私たちもいれてもらっていいかしら」

そう言って現れたのは清音さんと、え~と、確かブリュンヒルデだったかしら? 二人は私たちの輪に入ってきた。


「清音、あなたが無双鉄騎団に入るのはかまいませんけど、一つだけはっきりとさせておきたいことがございますわ」

リンネカルロが清音さんに挑戦的な口調でそう言う。

「あなたが雷帝リンネカルロね。同じ天下十二傑として名は知っているけど、会うのは初めてね。それではっきりさせたいってのはどんなことかしら? どちらの実力が上かって話なら立ち会ってもいいわよ」

「違いますわ! そんなの私が上に決まってますもの。そうじゃなくて、貴方は勇太のことをどう思ってるかってことですわよ」

「勇太の事をどう思ってるかって? そうね、弟みたいなものかしら、実際に弟弟子だし、家族みたいなものよ」

「弟……そう、なら貴方とは友人関係を築けそうですわね」


清音さんは、同性の私でも惚れ惚れするほど美しい裸体をしていた。リンネカルロも同じように思って、強烈な危機感を感じたのかそう確認したようだ。リンネカルロは安心して気付いてないけど、お姉さんに憧れを持つ勇太にとって、一番惚れやすいのは実は清音さんではないかと私は思っている。今は弟と思っていても、将来的にはどうなるかわかったものじゃない。



「そう、ブリュンヒルデって言うんだ。ナナミだよ、よろしくね。この子はファルマだよ」

「ナナミ、ファルマ、よろしくね」


ブリュンヒルデとナナミとファルマは歳が近いからか、仲良くなったようだ。三人は大人の女性の火花を気にすることもなく、キャッキャッと温泉を楽しんでいる。どっちかというと、私はナナミたちに混ざりたいと心から思っていた。

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