第277話 再会の余韻

温泉で火照った体を涼める為に、良い風のある庭園のベンチで寛いでいた。少し休んだら、ラネルに連絡しようかな、なんて考えていたらトコトコと渚が近づいてくる。


「風呂上がりにそんなとこで涼んでたら風邪ひくわよ」

「大丈夫、俺は風邪には耐性がある」

「何言ってるの! 小学生の時に風邪こじらせて肺炎寸前までいってたじゃないのよ」

「そんなこと、よく覚えてるよな」

「あたりまえでしょう! あの時どれだけ心配したと思ってるのよ!」

「心配してくれてたんだ」

「……そりゃ幼馴染みだもの、少しくらいは心配するわよ……」

渚はちょっと怒ったような表情で俺の隣に座ってきた。俺は無意識に渚が座りやすいようにと横に少し移動した。当たり前のように俺の横の位置に割り込んでくる渚に違和感を感じない。よく考えたら俺のこれまでの人生の大半に、こいつはこの位置にいたんだよな……。


「それで、行方不明中は何してたの」

「剣術の修行だ。ちょっとは強くなったんだぞ」

「へぇ~あれだけ合気道の練習に誘ってたのを断っていた勇太が、剣術修行ね……」

「なんだよ、悪いのかよ」

「悪かないわよ。どういう風の吹きまわしかと思ってね」

「お前がそんな言い方する時は何か言いたいことがある時だろ? はっきり言えよ」

「清音さんだっけ? 綺麗な人よね……白雪結衣にもどことなく雰囲気が似てるし、彼女に良い恰好したくて剣術なんてやったんじゃないの」

「馬鹿、清音はそんなんじゃないよ」

「じゃあ、どんなのよ」

「う~ん、そうだな……姉ができた感じかな」

「そういえば、勇太って一人っ子だからお姉さんに憧れてたよね。優子おばさんに、おねえちゃん作ってって無茶言ってたの覚えてるよ」

「どうしてそんなことばっかり覚えてんだよ、お前は!」

「知らないわよ、そんなの」


「それより、お前こそ何してたんだ? 俺を探しに無双鉄騎団と合流したって言ってたけど、暇だったのか?」

「失礼ね! 暇じゃないわよ。というより、基本的にはラネルの護衛をしていたから、彼女が忙しくてウロウロしていると、必然的に忙しくなってただけだけどね」

「ほら、お前は暇だったんじゃないか」

「うるさいわね!」


そんな会話をしていると、ふとクラスのみんなのことを思い出した。何気なくそれを渚に伝える。

「そういや、クラスの連中は元気かな」

「なによ唐突に……まあ、勇太と違って、みんなちゃんとしたルーディア値だったから元気にしてると思うよ」

「だといいけどな、案外この世界って理不尽なところあるから、苦労してる奴もいるんじゃないかな」

「クラスのみんなは、勇太がこうな風にみんなの心配をしてるなんて夢にも思わないでしょうね」

「どうしてだ?」

「えっ、だってみんなは勇太のことをルーディア値2で、奴隷生活してると思ってるんだよ。下手すると死んでるとか思ってるよ」


確かにそうだな……渚はたまに的を射たこと言うよな。

「とくに南先生とか心配で発狂してるかもよ。あの人、何かのドラマの影響か、物凄く熱い人だったから。勇太の事はきっと心配してるよ」

「南先生か……今の今まで存在を忘れていた」

「こら! あれだけお世話になった先生忘れてどうするのよ」

「だって、あの先生、たまに怖い時あるんだよな」

「怖い時ってなによ?」

「そうだな、たとえば、目的に一直線すぎて他の状況が見えなくなってる時とか目が怖いんだよ」

「あっ……確かにそんな目の時あるわね」

「あの目の時は目的の為にはなんでもしそうで怖い」


しかし、お世話になっていたのは間違いないし、普段は凄く優しい先生なので、気のせいだとは思っている。


「あっ! 渚が勇太とイチャイチャしてる!」


大きな声でそう言ったのはナナミだった。その声を聞きつけてアリュナとリンネカルロが飛んできた。

「抜け駆けはよくないよ、渚!」

「渚、約束が違いますわよ! ちゃんと後でみんなで再会をお祝いしましょうって言ったはずですわよ!」


アリュナとリンネカルロに責められて渚もタジタジである。結局、みんなに強引に、男女入れ替わりになった、地下温泉に連れていかれた。

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