第274話 もう一つのメシア/結衣

十軍神になってから、待遇が激変した。今までも、最上位ライダーとして敬意ある扱いは受けていたけど、さらに過剰ともいえるくらいに変化した。


すれ違った将軍の一人が私の前で跪いて挨拶する。十軍神の任命をした軍務大臣すら、任命後は敬語で接してくる。帝国での地位は、ラフシャルと皇帝についで三番目に高いものだと実感する。


これだけの待遇だけど、自由ではなかった。私は自らの首下に埋め込まれた赤い宝石を触る……これさえなければエリシア帝国を抜け出すのに……。


十軍神会議という、実質的にエリシア帝国軍、最高軍事会議に位置づけられるものが発足した。エリシア帝国軍のこれからの軍事行動を決めるもので、三か月に一度の開催が決まった。


「さて、十軍神会議の初回だが何から話そうか」

議長に指名されたユウトさんがそう話を切り出す。

「話の内容は決まっているじゃありませんか、どこの国を潰すかです」

いきなりクルスが過激な発言をする。

「潰すとか穏やかではありませんね。軍事会議だからと言って、どこかと戦争をする話をしなくてもいいのではないですか」

私は思わずそう言ってしまった。するとアージェインが賛同してくれる。

「俺も別にしなくてもいい戦争ならしなくていいと思うけどな」


「僕も基本的にはそう思っているのだけど、皇帝と大宰相から一つだけ大目標を決められているんだ。それは三年以内の大陸制覇だ」


ユウトさんの言葉に、十軍神の面々がそれぞれの反応をした。ロゼッタさんは興味なさそうにそっぽを向き、エメシスさんは腕を組んで何かを考え始めた。クルスはにやりと不気味に笑い始め、レイナは無表情を装っているが、笑みが見え隠れする。そして私とアージェインは苦笑した。大陸制覇とはあきれるほど滑稽だ。


「三年で大陸制覇とはまた急いだ話だな」

「それくらいが妥当な目標でしょう。今の私たちに対抗できるものなんているのかしら」

「三国同盟やラーシアには敗北しているぞ」

「それは末端のニトロ隊の話でしょ? 十軍神に勝てる者がいるかって話よ」

「それはどうかわからないが、ラーシア王国で敗れたニトロ連隊を倒したのはたった一機の魔導機だという噂なのだがな」

「嘘でしょう……」

「それが本当なら、我々、十軍神に匹敵する敵がラーシアにはいるということだ」

「ラーシア王国とは一体なんなの……」


「ラーシア王国は元々エリシア帝国の一部だったんだよ。思想の違いと権力争いの末に分裂することになったのだけど、その時、ある組織もラーシア王国派とエリシア帝国派で分裂した」

エメシスがいきなり昔話のように話し始めた。

「ある組織ってなんだよ、エメシスの旦那」

「メシア一族だ」


ラフシャル狂信者のメシア一族が分裂⁉ 興味深い話になってきた。

「メシア一族ってのはなんですか?」

新入りのレイナはもちろん、メシア一族を知っている者の方が少なかった。


「ここにいるものは十軍神に選ばれた者たちだ。だからこそ話しておくが、エリシア帝国の真の支配者はメシア一族とラフシャル様だ。皇帝はメシア一族の現族長の一人にすぎない」

「どうしてエメシスの旦那がそんなこと知っているのですか」

「俺もメシア一族だからだ」

衝撃の告白にみな驚く。

「だからこそメシア一族の力を知っている。メシア一族にはメシア一族しか対抗できない。だからラーシア王国だけは油断できない相手なのだ」

「ニトロルーディアの技術をラーシア王国も持っているということか?」

「どこまでの技術があるかはわからないが、古代文明時代の技術なら保有している可能性がある」

「ちっ、ニトロルーディアの力で無双できると思ったのにな」

アージェインが残念そうに言う。


「まあ、正確に言えば、本当に怖い敵はラーシア王国ではなく、その後ろにいる分裂したメシア一族のあの組織だがな」

「ラドルカンパニーね」

「クルス、どうして知っているんだ⁉」

「そこまで言えば予想できるでしょう。国を裏から支配できる組織なんてかぎられてるじゃない」


ラドルカンパニーの名を聞いてみんな納得しているようだけど、私は初耳だった。

「ラドルカンパニーってどういう組織なんですか?」

「結衣も一度はその組織に関わっているよ。ラドルカンパニー。大陸全域を絶対中立の名のもとに支配している営利組織。召喚装置を持っている唯一の存在だ」


召喚装置⁉ ていうことは私たちをこの世界に呼んだのはラドルカンパニーていうとこなんだ……。

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