第273話 十軍神/結衣

「みなも聞いていると思うが、ラーシア王国との戦いで歴史的な敗北を期した。このままではエリシア帝国の威厳は地に落ちるだろう。そこで軍部の大規模な組織改革を行うことにした」


イーオさんの後任の新しい軍務大臣がそう宣言する。この場に呼ばれたのはニトロ隊の上位ライダーばかりで、最近、ニトロルーディアを施されたユウトさんたちもいた。ニトロ隊以外では新皇帝に大宰相ラフシャルとエリシア帝国の上層部が揃っている。


「まずは、ニトロ隊から特に優秀な者に称号を与える。これはエリシア軍の地位としても有効で、軍の最高位を意味する」


ニトロ隊の面々がざわざわとざわめき立つ。軍の最高位という言葉を聞いて、もしかしたら自分がと期待を持ったようだ。


「称号の名は【エリシア十軍神】この名を大陸中に広め、エリシア帝国の象徴として畏怖と尊敬の対象となるだろう」


俗な名称に苦笑する。しかし、皆は名称には興味がないようで、誰がその称号を手に入れるかを早く聞きたいようだ。十軍神と言うくらいだから十人に与えられる称号だと思うけど……。


「それでは称号の授与をおこなう。一人ずつ名を呼ぶので前にでるように。また、大陸中にその強さを知らしめる為に、エリシア十軍神はルーディア値も国の内外に公表する。名と一緒にそれも読み上げる」


いよいよとなり、場が静まり返る。ルーディア値を読み上げると言うことは、十軍神の選定基準がルーディア値だということがわかる。ニトロルーディアで大幅に上昇しているルーディア値にみんな自信があるのか、自分が呼ばれることに疑いを持っていないようだ。どこからか喉を鳴らす音が聞こえてくる。そんなに軍の最高位が欲しいのか、目をぎらつかせて軍務大臣の言葉を待っている。


「まずは一人目、ルーディア値、425000、ロゼッタ」

いきなり三傑の一人が呼ばれた。これはしかたないとみんな納得している。


「二人目は、ルーディア値、427000、アージェイン」

元トリプルハイランダーのアージェインだ。ニトロ隊でともに戦っているので面識はある。金髪で筋肉もりもりの体の陽気な青年だ。三傑のロゼッタを上回る数値に、場がざわざわとざわめく。


「三人目は、ルーディア値、434000、クルス」

新人のクルスが呼ばれたことで、称号に経歴が関係ないことがわかる。これを聞いて絶望的な表情をする者が大勢いた。どこかで数値以外での選定を期待していたところがあるのだろう。


「四人目は、ルーディア値、443000、エメシス」

三傑の一人が呼ばれる。やはり元の数値が良い者は、ニトロルーディアを受けても、数値が高くなる傾向があるようだ。


「五人目は、ルーディア値、448000、レイナ」

レイナのルーディア値の高さに驚く。彼女は誇らしそうに前へとでていった。


そして六人目の発表で、今までで一番の反応があった。それは少し前まで大陸最強と呼ばれた人物の名前だった。

「六人目は、ルーディア値、988000、ユウト」

今までの数値を凌駕するルーディア値に、みんな驚きの声をあげる。


だけど、ユウトの名が六人目で呼ばれたことに気が付き、ざわめきは大きくなる。そう、ここまでの発表はルーディア値の低い順で呼ばれていたからだ。まだ、上に四人もいるのが信じられない様子だけど、私はそのうちの一人を知っていた。


「七人目は、ルーディア値、1389000、結衣」

私の名前が呼ばれて一瞬静まり返る。ちらっと見たレイナの表情が、鬼のように変化していた。まさか自分のルーディア値より上とは思っていなかったようだ。


「称号を授与する者は以上である」

軍務大臣がそう言うと、またざわめき立つ、十軍神なのにまだ、七名しか呼ばれていない。どういうことか戸惑っているのを見て、軍務大臣は言葉を追加する。

「なお、この場にはいない三名がすでに十軍神として決まっている。その者たちはのちに発表されるだろう」


謎の三名が気になる。周りで誰だろうと、予想する声がするが、誰も見当もついていなかった。

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