第272話 エリシアに集う/結衣
軍務大臣のイーオさんが辞任した。理由は持病の悪化による体力の低下ということだけど、本当の理由はそうではないことはみんな知っていた。
帝都を離れ、田舎で隠居すると言って去っていった。旧皇帝体制の最後の大物が表舞台から去ったことで、本格的にラフシャルの支配する新体制に移行することになった。
その流れにはユウトさんをはじめとする、エリシア帝国の三傑とよばれる最高峰ライダーたちも抗うことはできなかったようだ。ユウトさん、ロゼッタさん、エメシスさんの三人も、ニトロルーディアを受けることになった。最強の三人がニトロルーディアでどれくらい強くなるのか想像ができない。
「何をボーとしているのだ、結衣」
「あっ、いえ、私に会わせたい人物がいるということですが、いったい誰かと考えていました」
先ほど、ラフシャルから呼び出しを受けていた。会わせたい人物がいるとのことだが、だれだか予想できないでいた。
「久しぶりね、結衣」
ラフシャルの呼び出しで現れたのはクラスメイトの亜門レイナだった。学業の傍ら、モデルもしている才色兼備の子で、正直、私との仲はよくない。なぜか私に妙な対抗心を持っているようで、なにかと張り合ってきていた。
「レイナ、どうしてエリシアに?」
「私の国がエリシアに滅ぼざれたからよ。だから、今度はこの国でライダーとして働くことになったの。よろしくね、先輩」
嫌味のある口調は、まだ私のことを良く思ってない印象を感じた。
「どうだ、結衣、旧友との再会は? レイナはクラス4の優秀なライダーだ。ニトロルーディアの結果も良好で、これからはエリシアを代表するライダーとなるだろう」
レイナはすでにニトロルーディアを施されているようだ。爆発的に増大したルーディア値によって、あれほど余裕のある雰囲気をだしているのかもしれない。
「クラスメイトと再会できて嬉しいです。よろしくね、レイナ」
心にもないことを言ってしまった。もちろん、レイナも私のこの言葉が本心だとは思っていないだろう。不敵に笑っているその表情をみればわかる。
「それともう一人、こちらは初対面だと思うが、同じくクラス4の優秀なライダーだ。これから協力することもあるだろうから、紹介しておこう」
現れたのは金髪の長い髪が印象的な驚くほどの美人であった。
「クルスです。これからはエリシア帝国の為に尽力いたします」
女の感というものだろうか、彼女には妙な違和感を感じた。何気ない言葉の裏に、レイナ以上の悪意を感じる。あまり関わり合いになりたくない私は適当に挨拶すると、ラフシャルの謁見室を後にした。
国内の多くのライダーにニトロルーディアを施す計画は進んでいた。しかし、機材や技術者の関係で、全ライダーがニトロ化されるにはまだまだ時間が必要だった。やはりルーディア値が高い者が優先されるようで、それは国家への貢献などは関係なく、他国から編入されたばかりのライダーでもルーディア値が高ければすぐにニトロ化される。
ニトロ隊の拡大により、エリシアは急速に力を得ていた。こんなに強くなってなにをするつもりだろう。もう対抗できる敵国などないだろうに……そう思っていたのだけど、ニトロ隊の敗戦が、連続でもたらされた。ニトロ隊の本部はその話で大騒ぎになっていた。
「三国同盟との闘いで、ニトロ隊の分隊が全滅した!」
「まさか、剣豪団か?」
「いや、そうではないらしい。別の傭兵団だという話だが詳細はわかってない」
「さらにラーシア王国との闘いではニトロ隊の連隊がこてんぱんにやられたそうだぞ」
「嘘だろう……連隊規模のニトロ隊が一方的にやられたってことか!?」
「そうだ。なにが起こってるんだ。ニトロ隊は無敵の部隊じゃないのか」
ニトロ隊は底辺のライダーでもかなりの力がある。さらにテラーメイルの性能は、並みの魔導機を凌駕する。それを一方的に倒すとなると、敵の力がどれほどのものか想像できない。
この事態を受けて、エリシア帝国の軍部は大きな変革を決断する。その発表に私も呼び出された。いったいなにが起こるのか想像できなかった。
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