第266話 新たな動き
「見張りご苦労様です。交代します。」
見張り台から山の麓に展開するヴァルキア帝国軍を見張っていた俺に、ダイラム伯爵の部下が数人やってきてそう言う。
「ありがとう。それじゃ、頼みます」
ヴァルキア帝国の次の攻撃がいつになるかわからない。アリス大修道院は警戒をゆるめることもなく注意していた。24時間の警戒なので、交代で常に動きを見張る必要があった。とくにやることのない俺たちもその手伝いをしている。
見張りを終えた俺は、お腹も空いていたこともあり、食堂へと向かう。食堂では大勢の兵やシスターが食事をとっていた。
「勇太さん、こっちです!」
俺を見つけたトリスが呼んでいる。同じ席には清音とシスター・ミュージーが同席していた。
「申し訳ありません。勇太さまにも見張りをしていただいて……」
シスター・ミュージーが申し訳なさそうにそう言う。
「いや、別にやることがあるわけじゃないからいいよ。それより今日の食事は野菜スープか」
みんなが食べているのは小ぶりな野菜が少しだけ入ったスープで、後はパンと小さな干し肉である。やはり量は少なく、節約が目に見える。
「勇太さんのは俺がとってきますよ!」
そう言ってトリスが走る。別に自分で取りに行くと言おうとしたが、すでに食事の受け取りの列に並んでしまった。
「それより、シスター・ミュージー。ちょっと聞いてよいですか」
清音があらたまってそう話をきりだす。
「はい。なんなりとお聞きください」
「大陸の各国にこの状況を伝えて、助力をお願いしていると言っていましたが、その後どうですか?」
「はい。やはりどこの国も相手がヴァルキア帝国となると同情はしてくれるのですが、実際に救援の申し入れはございません」
「やはり、そうですか……いくら勇太の無双鉄騎団が強くても、一傭兵団の対応には限界があります。どうしても国家規模での支援が必要だと思うのですが……」
「もちろん、我々もそう考えています。それで有力な国家へと働きかけを強めたところです」
「有力な国家ってどこなんだ?」
俺がそう聞くと、シスター・ミュージーは表情を明るくさせてこう答えた。
「リュベル王国です」
「確かにリュベルならヴァルキア帝国を恐れることもないですし、もともとリュベルとヴァルキアは犬猿の仲、支援に応じてくれるかもしれませんね」
「はい。リュベル王国側の反応も悪くなく、本日中にも支援内容が伝えられることになっています」
シスター・ミュージーの話の通り、その日のうちにリュベル王国から正式な返答が届いた。届いた支援内容はアリス大修道院としては満足するものであった。
「すでに救援の為に5000機の魔導機軍がこちらに向かっているそうです」
「凄いな、それなら包囲しているヴァルキア帝国軍も蹴散らせるかもしれないな」
「さらに今後も防衛支援を約束してくれました。これでヴァルキア帝国も迂闊には手をだせなくなるはずです」
かなりの朗報にシスター・ミュージーは終始、笑顔だった。
「こちらに向かっているって、どれくらいで到着する予定なんだ?」
「はい。五日ほどだということです」
「五日か、無双鉄騎団がくるのとどっちが早いだろ」
「無双鉄騎団の方にも、すでに伝言は伝えられたと思いますので、同じくらいかもしれませんね」
どちらにしても後五日ほどでこの状況を打開できそうだ。ゴールが見えると気持ちにゆとりができる。もう少しで会える無双鉄騎団の仲間たちの姿を思い浮かべる。やはり、会いたいと思っていたのか、ちょっと嬉しさがこみあげてきた。
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