第267話 新魔導機

予定通り、五日後にリュベル軍が姿を現せた。魔導機とライドキャリア、さらに戦闘車両も従えた大部隊であった。その登場にはアリス大修道院を包囲するヴァルキア帝国軍も慌てふためく。


「二つ頭の蛇の紋章……あれはリュベル王国の第三機甲師団だな。敵だった時なら震えあがって逃げ出すところだが、味方として現れると頼もしいものだ」


元々ヴァルキア帝国の人間であるダイラム伯爵は支援で現れたリュベル王国軍をよく知っているようでそう言った。


ヴァルキア帝国軍が、現れたリュベル王国軍に対して迎撃する動きをみせた。アリス大修道院を包囲する軍をリュベル王国軍に向けて展開する。


「軍の規模は同じくらいだけど、リュベル王国軍は大丈夫なのかな」

兵力は互角に見える。颯爽と助けに現れて、返り討ちにあっては笑い話にもならない。

「リュベル王国の第三機甲師団とヴァルキア帝国北部方面軍では格が違いますな。せめて中央防衛軍くらいでないと相手になりますまい」

ダイラム伯爵の見立てではリュベル王国の第三機甲師団の圧勝ということらしい。


「両軍が動き始めましたね」

清音の言葉の通り、ゆっくりと両軍はお互いを攻撃する為に近づき始めた。


「あれはなんだ……」

ダイラム伯爵がリュベル王国軍の前列に並ぶ魔導機隊を見て驚いている。確かに前列の魔導機は特殊な形状をしていた。アーサーのセントールのような四足歩行なのだが、馬と人を合わせたような中途半端なものではなく、完全に獣の形をしていた。獣の体の背中部分には、戦車の大きな砲門のような丸い筒が取り付けられている。あの見た目で俺が名前をつけるなら、獣戦車と命名するだろう。


獣戦車隊は、見た目通りの性能を見せた。近づくヴァルキア帝国軍の魔導機に向けて砲門が一斉に火を噴く。着弾した砲弾は大きく爆発して、ヴァルキア帝国の魔導機を粉砕する。威力があり、攻撃範囲の広い攻撃は集団戦では驚異的な効果を発揮する。


獣戦車の砲門にさらされたヴァルキア帝国軍は近づくこともできなくなった。その為、ヴァルキア帝国も遠距離からの攻撃に切り替えるしかなかったが、ライドキャリアのバリスタとアロー隊のアローくらいしか遠距離攻撃がないヴァルキア帝国軍と、獣戦車の砲門では性能差がありすぎた。戦況はあっという間にリュベル王国軍へと傾く。


「凄まじい威力ですな……あれではヴァルキア帝国軍は手も足も出ないでしょう」

獣戦車の前に、どうすることもできないヴァルキア帝国軍は、徐々に後退を始めた。バラバラと逃げるように獣戦車の射程から離脱する。


「勝負ありましたな。これでヴァルキア帝国は撤退しますな」

ダイラム伯爵の言うようにヴァルキア帝国はこの場にとどまることはないようだ。全軍が自国へと向かって移動を開始した。すでに戦う意志はないように見える。


勝者となったリュベル王国軍は、ヴァルキア帝国軍に代わり、ゆっくりと山の麓に軍を布陣させた。


リュベル王国軍からアリス大修道院に使者がやってきた。手厚く礼を言うマザー・メイサに対して使者はこう伝えた。

「ヴァルキア帝国軍がすぐに戻ってくる可能性がありますので、しばらく山の麓に滞在いたします」

「それは助かります。宜しくお願いいたします」

「つきまして、一つお願いなのですが山の上にも部隊を置かせていただけないでしょうか。ヴァルキア帝国が援軍を呼び、大軍で現れる可能性がありますのでその備えです」

「もちろん、お断りする理由はありません」

マザー・メイサは即答した。


しかし、山の上はそれほど広くはないので、リュベル王国軍の部隊を受け入れるには手狭だ。

「とりあえず俺たちは一度下山して、ライドキャリアに戻ります。なにかあったら呼んでください」

リュベル王国軍がいれば守りの心配をすることはない。無双鉄騎団と合流しないといけないので、ここを去るわけにはいかないけど、なにも本院で待機する必要はない。

「勇太様、申し訳ありません。それでは連絡係としてシスター・ミュージーを同席させます」


さらにリュベル王国軍の部隊を受け入れる為に、ダイラム伯爵の部下の30機の魔導機隊が俺たちについてくることになった。確かに獣戦車の部隊が山の上で敵を迎え撃った方が強いのはわかるけど、これまで頑張ってここを守ってきたダイラム伯爵の部隊が否定されたみたいで少し悲しい気持ちになった。

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