第265話 使者と情報/渚

ニトロ隊の分隊を無双鉄騎団が倒したことによる影響だろうか、対峙するエリシア軍が撤退を始めたと情報がきた。これで依頼を達成したことになる。私たちは報酬を貰う為にターミハル軍の司令部へと向かった。


無双鉄騎団の活躍はすでにターミハルの上層部に伝わっているようで、契約の延長をお願いされた。しかし、今は、勇太との合流が最優先である。丁重にその話は断った。


「それで、約束の剣豪団の情報なんだけど、どうなんだ」

「うむ……我が国最大級の秘密情報なのだが、いたしかたない。結論から言うと剣豪団はすでに存在しない」

「剣豪団が存在しないだって!」

「そうだ。剣豪団は少し前に解散している」

想定外の答えにジャンも困っているようだ。


「それでは剣豪団だった者たちは今はどうしてるんだ? 剣聖や剣王、それに剣皇はどこにいったんだ」

「剣聖は戦死したそうだ……剣王、剣皇については今、どこにいるか我々も把握していない」

「あの剣聖が死んだって! 誰がそんなことできるんだよ!」

「大陸最強のライダーである、ユウトとの闘いで敗れたと聞いている」

「あのユウトか! そうか……それならありえるな……」

「残念だが剣豪団について我々が知っているのはそれだけだ。それより、我が国との契約の話だが……」

「悪い、今は仲間の捜索が第一なんだ。それが終わったら契約については考える」

「前向きに検討してくれ。剣豪団無き、今、頼れる戦力が少しでも欲しいのだ」

「もちろん前向きに検討させて貰うよ」


頼りにしていた情報では剣豪団の所在はわからなかった。勇太の捜索は振り出しに戻ってしまった。


「ジャン、どうするんだい」

「そうだな、まずは解散した剣豪団の元メンバーを探そう。もしかしたら有力な情報が得られるかもしれない」


ということになり、無双鉄騎団は、ターミハルを中心に、三国同盟の国々を周って剣豪団の元メンバーを探した。しかし、一人として見つけることができない。


「最強の傭兵団と呼ばれた人材だからな、もしかしたらすでにどこかの組織に囲われているのかもしれん」

「ありうるね。下手すると三国同盟のどこかがごっそり雇用している可能性もあるわよ」


打つ手が無くなり、どうすればいいか悩んでいた時、フガクに一人の人物が訪ねてきた。その人物は行商人のような恰好で、何かを売り込みにきたのかと思っていたのだけど、本当の要件は違った。


「無双鉄騎団の代表にお話がある。おすすめの商品があるのでぜひ見ていただきたい」

「悪いが、間に合ってるよ。他をあたってくれるかい」

対応したアリュナが迷惑そうにそう言う。

「いえ、本当におすすめの商品なのです。勇太さまからご推薦されている、無双鉄騎団だからこそお売りする特別な品にございます」


勇太の名を聞いてアリュナの表情が一変する。

「ダルム! バルム! ちょっときな! 怪しい奴だよ! あんた何者だい……どこでその名を知った!?」


双子のメカニックがアリュナの呼びかけですぐにやってきた。ふたりは行商人を囲むように近づく。

「おちついてください。私は敵ではありません。伝言を伝えに来ただけです」

「伝言……わかったよ。まずは話を聞いてからだね。ライザ、ジャンをここに呼んで」

呼ばれたジャンはすぐに格納庫へとやってきた。

「どうした。そいつは何者だ?」

「伝言を持ってきたそうだよ」

「ほう、ならその伝言を聞かせてくれるか」

「あなたが無双鉄騎団の代表ですか」

「本当のリーダーは不在だからな、代理みたいなもんだ」

「はい、それでは伝言を伝えます。【アリス大修道院の本院へ来てくれ 勇太より】確かにお伝えしました」

「確かに素晴らしい伝言だが、その伝言が本物かどうかどうやって判断すればいい?」

「それは私を信じていただくしかございません」


たしかに嘘の伝言の可能性もあるかもしれないけど、短いメッセージに、私は勇太らしさを感じた。

「ジャン、たぶんそのメッセージは勇太が言ったものだと思う」

「そうか、渚が言うなら間違いないかもな。それより伝言人、あんたは何者なんだ?」

「アリス様の使いにございます」

「なるほど、アリス大修道院の密偵か……わかった。伝言は受け取った」

「それでは失礼します」


そう言ってその人はフガクから出て行った。だけど、いきなり勇太からの伝言とは急展開である。アリス大修道院、そこに勇太はいるのね。

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