第259話 篭城戦
山を登ってくる敵軍を抑え込む役目を、俺たちが引き受けた。ダイラム伯爵の部隊の強さは、特殊強化されているアローによる遠距離攻撃にある。俺たちが接近を抑え込めば、その威力を最大限に発揮してくれるだろう。
「きたぞ! 絶対に上にはいかせない!」
ヴァルキア軍は隊列を組んでこちらに迫ってくる。ダイラム伯爵の部隊に痛い目にあってるからか、すべての魔導機は大きな盾を持ち、それを上に構えていた。
隊列の一番前の部隊が、待ち構える俺たちに気が付いたようで、上に構えていた盾を前方に突き出した。並ぶ大きな盾はまるで壁のように見えた。
「放て!!」
ダイラム伯爵の声で、アローを放つ命令が下される。山の上から無数のアローが飛来して敵軍へと降り注ぐ。
威力を強化されているアローでも、大きな盾を貫くまではいかないが、盾と盾の隙間などに入り、軽微な被害を与える。
強化アローを盾が弾き返すのを見て、清音が言う。
「あの盾、普通の盾じゃないようですね。強度が異常です」
隊列を組んで特殊な盾を並べて迫ってくる敵軍にアローの効果は弱いように見える。だが、同じヴァルキア軍としてダイラム伯爵は敵の戦法は熟知しているようだ。
「フレイムアロー装填! ──……構えよ! ──……放て!!」
次のアローは燃えていた。燃え盛るアローが敵軍の盾に当たると、炎は大きく広がり、敵軍を炎に包み込んだ。
燃え広がる炎は青色をしていた。それを見て清音が説明してくれる。
「アローに燃焼液を仕込んでいたようですね。燃焼液で燃える炎は高熱です。長くあの炎に当たれば、魔導機の装甲も溶かします。
それを敵軍も熟知しているのか、燃焼液の炎を慌てて消そうとする。その為に隊列が崩れた。隊列の崩れた敵に対して、ダイラム伯爵の部隊は強化アローの雨を降らせる。盾を構える暇もなく、敵魔導機は強化アローに貫かれていった。
ダイラム伯爵もなかなかやるな。さすがは少数で大軍を相手にこの本院を守っていただけのことはある。
アローでボロボロにやられた重装魔導機部隊は後退する。代わりに軽装で身軽そうな魔導機の部隊がワラワラと早い動きで上を目指してきた。今度は機動力を生かして一気に山の上へと到達しようとしているらしい。
ダイラム伯爵部隊のアローが降り注ぎ、命中した魔導機はその場に倒れていく。しかし、打ち漏らした敵機は倒れる味方を気にすることなくこちらに迫ってきた。
迫ってきた敵はかなり機動力のある機体だが、相手が悪い。山の頂へと近づく敵は、剣の一振り、一閃の攻撃で俺たちに斬り伏せられ倒される。
頂きへの道を守るのがたった四機の魔導機だと侮ったのかもしれない。二桁の数が斬り伏せられ、やっとここを通る難しさを理解したのだろう。敵部隊は逃げるように後退した。
敵は作戦を練り直すつもりか、全軍が山を下りて撤退した。下手な攻撃を繰り返さないのは敵の指揮官が無能ではない証拠かもしれない。
「この山は強固な要塞のようですね」
戦闘を終えて清音が感想を言う。
「ハハハッ──この頂きまで続く道以外は断崖絶壁で、魔導機どころか人も上るのは難しい。唯一のこの道も狭く険しく、守りやすく攻めにくい。まさに難攻不落の要塞ですな」
ダイラム伯爵は豪快に笑いながらそう言った。
「このままあきらめて国に帰ってくれると助かるんだけどな」
「ワシもそう願いますがその可能性は0でしょうな。ヴァルキア帝国はどうしても禁書ラフシャル・ウェポンを欲しております」
それを書いたと思われる本人を知っているからか、そのありがたみがイマイチ理解できない。なのでこんな提案をしてみる。
「そんなのあげちゃえばいいんじゃないのかな」
「なにをおっしゃいますか勇太殿! 禁書ラフシャル・ウェポンに書かれている兵器は、超兵器! 噂では城を一撃で屠る威力があるとか……そんなものが欲深いヴァルキア帝国が手に入れてしまったら大変なことになります」
城を一撃とは確かに穏やかではない。それならいっそ燃やしちゃえばいいんじゃないかと思ってしまったけど、言うと怒られそうなので黙っていた。
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