第258話 正式な依頼
アリス大修道院の本院を守る兵力は、ダイラム伯爵の指揮する100機の魔導機だけである。対する包囲するヴァルキア軍は5000機を超える兵力に、30隻の戦艦タイプのライドキャリアも備えていた。
無双鉄騎団にメッセージを伝えたので、脱出せずに、しばらくはこの本院でお世話になることになった。必然的にこの篭城戦に巻き込まれたということになったのだが、俺たちの立場というものがはっきりしない。その状況を察したのか、マザー・メイサよりこう話を切り出された。
「勇太様。無双鉄騎団にアリス大修道院から正式にご依頼いたします。どうか横暴なヴァルキア帝国より、我々をおすくいください」
俺はそれでも構わないが、清音たちは無双鉄騎団ではない。どう答えようか困っていると、清音が涼しい表情でマザー・メイサにこう言った。
「マザー・メイサ。そのご依頼、ご引き受けいたしました。微力ながらご尽力いたします」
「ちょ、ちょっと清音! これは無双鉄騎団への依頼だぞ! いいのか?!」
「少し前から決めていました。剣豪団は解散しましたし、今更、傭兵以外の仕事もできるはずもありません。父上が復活するまでの間になると思いますが、無双鉄騎団でお世話になります」
勝手に決められてもな……まあ、清音なら戦力的には問題ないし、誰も反対しないだろう。
「師匠がこう言ってるけど、ブリュンヒルデとトリスはどうするんだ」
「もちろん俺は師匠に付いていきます! 勇太さん! よろしくお願いします!」
「私もそれ以外に選択肢はありません。どうぞ、よろしく願います」
答えは予想していたが、二人とも迷うことなく清音に付いてきた。
「ということで、マザー・メイサ。こちらも正式に依頼を受けさせてもらいます。無双鉄騎団は全力でアリス大修道院を守ります」
俺がそういうと、マザー・メイサは深々と頭を下げた。
包囲するヴァルキア帝国軍は、兵糧攻めの戦術に切り替えてからは大規模な攻撃を仕掛けてこなくなっていたそうだ。だけど、俺たちが包囲を突破して本院に入ったことで状況が変わった。
「敵に攻撃再開の動きがあるようですな」
ダイラム伯爵が、敵の動きを見てそう報告した。
「やはり食料を運び込まれたことで、戦法を変えてきましたか」
「おそらくそうでしょう。シスター ・ミュージーが食料を持ってきてくれなければ、十日も持ったなかったですからな。敵さんもそれを予想して忍耐強く待っていたようですが、食料を運び込まれて痺れを切らしたのでしょう」
「だったら攻めるのを諦めるくらいに徹底的に叩こう」
「勇太殿や清音殿が手助けしてくれるならそれも可能ですな。頼りにしております」
俺たちは傭兵だ。依頼を受けて戦うことは普通である。だけど、ダイラム伯爵は母国を裏切ってまで、どうしてアリス大修道院の味方をして戦っているのだろうか。出撃前に、ダイラム伯爵と二人になる機会があったので思い切って聞いてみた。
「我が領地とアリス大修道院は、本院と領地が近いこともあり、昔から深い付き合いがあります。領地が日照り続きで作物が育たず、困っている時にも、アリス大修道院は手を差し伸べてくれました。長い年月の間に、何度も何度も我々は助けられた。しかし、これまでこちらがアリス大修道院を手助けする機会はありませんでした。今回は長年の恩を返す絶好の機会。ワシの家臣たちも個人的にアリス大修道院を信仰している者ばかりですので、ヴァルキア帝国を裏切ってアリス大修道院に味方すると言っても誰も反対する者はいませんでした」
義理堅そうな感じだとは思ったけど、そういう理由なんだ。領地の人々は皆、アリス大修道院に恩を感じているんだ。
「それにワシは個人的な感情でもここを助けたかったのです」
「個人的な感情?」
「恥ずかしい話ですが、ワシはマザー・メイサに惚れているのですわ」
「あっ、そうなんですか」
「ですからワシは一人でもここを守るつもりでした。幸い、皆、付いてきてくれましたがな」
この世界の聖職者って、恋愛とか大丈夫なのだろうかと少し疑問に思ったけど、多分、そんなことはどうでもいいんだろうな。ダイラム伯爵に対する印象がさらに良くなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます