第253話 山の頂

シスター・ミュージーのライドホバーの動きに気がついた敵軍はそれを阻止しようと動きだす。しかし、ライドホバーを護衛しているのは天下十二傑の一人とその弟子たちだ。近づいてくる敵機は菊一文字の剣に一刀両断される。


敵の多くはエクスカリバーに気を取られていたこともあり、ライドホバーは包囲の一部を突破することができた。山の頂までの道にも部隊が配置されているが、清音たちならなんとかなるだろう。


俺はライドホバー突破後も、追撃を防ぐ為にその場に止まって戦っていたけど、そろそろ限界が近づいてきていた。敵の主力も動き出したようだし、このままだと脱出が困難になってしまう。手遅れにならないうちに、俺も山の頂へと向かって動き出した。


敵を斬り伏せながら山を登っていく。ゾロゾロと多数の魔導機がエクスカリバーを追ってくる。このまま大軍を本院まで連れていって大丈夫だろうかと心配になってきたその時、山の頂の方面に無数の光が生まれた。その光は追撃してきたヴァルキア軍に降り注ぐ。


光の正体はアローの攻撃だった。しかも普通のアローではないようで、驚異的な威力をみせつける。追ってきたヴァルキア軍の魔導機は次々と光の柱に串刺しにされて破壊されていく。


アローの攻撃を受けて、ヴァルキア軍はエクスカリバーの追撃を諦めた。そのまま山の麓まで撤退していく。それを見届けると、俺はゆっくりと山の頂へと向かった。



アリス大修道院の本院は、石造りの宮殿のような建物だった。その周りには多数の魔導機が警戒しながら山の麓を監視している。多くの魔導機が大型のアローを装備していた。さっきの攻撃はあのアローから繰り出されたのだろう。


「白い魔導機のライダー殿! 見事な戦いぶりでした。このダライム、感服いたしました!」


朱色の魔導機がエクスカリバーに近づいてきてそう話しかけてきた。

「こんなところで話すのもなんですので、ささあ、中へお入りください」


そう言って本院の中へと案内された。広い本院の中には、シスター・ミュージーのライドホバー。それに菊一文字、鬼丸国綱、虎徹の姿をみつける。みんな無事に到着しているようだ。


「勇太さん! 見事な無双ぶりでした!」

トリスが俺の顔を見ると、嬉しそうにそう言ってきた。

「大先生に見劣りしない戦いぶりでしたね」

ブリュンヒルデもそう言ってくれるが、清音からは厳しい言葉がかけられる。

「まだまだ力押しが目立ちます。あんな戦い方していたら長くは持ちませんよ」

ブリュンヒルデたちはともかく、やはり清音の目はごまかせない。確かに強引で大雑把なところがあったと反省していた。



「シスター・ミュージー!!」

大きな声に俺たち全員が一斉に声のした方を見る。そこには背が高く、青髪の美しい女性が立っていた。シスター・ミュージーと同じような修道服を着ているが、どこかランクの高い高貴さがある。おそらくシスター・ミュージーの上司だと思われる。


「もっ、申し訳ありませんマザー・メイサ……」

「勝手にライドホバーで飛び出したりして……無事だったからよいものを、何かあったらどうするのですか」


どうやらシスター・ミュージーは独断で本院から飛び出したようだ。それを心配した上司に怒られている。

「マザー・メイサ。その辺で良いでしょう。シスター・ミュージーが持ち帰ってくれた食料のおかげで、あと六ヶ月は凌げます。これで希望も繋がりましょう」


そう声をかけたのは、朱色の魔導機のライダーで、確かダライムと名乗った人だと思う。

「確かに六ヶ月もあれば、大陸中にヴァルキア帝国の横暴を伝え、助力をお願いすることもできるかもしれません……シスター・ミュージー……命に背いたことはよくありませんが、結果、貴女に礼を言わないといけませんね」

「いっ、いえ。私だけではここに戻ることはできませんでした。礼を言うならここまで連れてきていただいたあの人たちに言ってください」


シスター・ミュージーの言葉を聞いて、マザー・メイサはこちらに深々と頭を下げた。

「この度は危険を冒してまで、私たちアリス大修道院をお助けいただきありがとうございます。聖母アリスの加護が皆様にありますようにお祈りいたします」


あらたまってそう礼を言われると、なんだかこそばい感じになる。ひとまずはここも大丈夫のようだ。後は俺たちがここから脱出するだけだな。

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