第252話 包囲突破

近くの町はヴァルキア軍によって封鎖されていたこともあり、俺たちは少し離れた町で大量の食料を手に入れていた。あとはこれをアリス大修道院の本院へと届けるだけである。


アリス大修道院の本院は、シスター・ミュージーの言うように、小高い山の頂にあった。本院はその山ごとヴァルキア軍に包囲され、中に入るのも容易ではないように見える。


「よくあの包囲を抜けて脱出できたな」

俺は率直な感想をシスター・ミュージーに伝える。

「あの時は必死でしたから……今、あらためてこの光景を見て自分でも驚いています」


「どうしますか、勇太。無理をすれば菊一文字も動かせますけど」

菊一文字の修理は八割程度だと聞いている。八割でも清音なら十分な戦力になるだろう。


「清音、ブリュンヒルデ、それにトリスは一緒に来てくれ。ムサシはこの場所で待機してもらって、シスター・ミュージーのライドホバーを護衛しながら包囲を突破しよう」


船体の大きなムサシを連れてあの包囲を突破するのは難しい。シスター・ミュージーのライドホバーはそれほど大きくないのでなんとかなると思う。食料を全てライドホバーに積み替えて準備をした。


「よし、作戦を伝えるぞ。俺がエクスカリバーで突っ込んで敵を混乱させるから、その隙に、清音たちが護衛しながらライドホバーは本院を目指してくれ」

「随分と大雑把な作戦ね」

「他にいい案があるか?」

「いえ。私たちには最良の作戦だと思います。他には真似できないと思いますけどね」


確かにそれには同意する。自分で言うのもなんだが、こんな無茶なこと他人にはさせられない。



作戦通り、包囲する軍を混乱させる為に堂々と敵軍へと向かって行った。しかし、包囲している全軍を相手にする必要はない。山の頂へと続くルートを守っている敵軍に狙いを定め移動する。


エクスカリバーの姿を確認したヴァルキア軍がこちらに殺到してくる。俺は仁王立ちしてそれを迎えた。


「貴様! どこの所属の魔導機だ! アリス大修道院は閉鎖中で入れはしないぞ!」


警告か情報収集の為かそう聞いてくる。


「悪いけど、どうしても本院にいかないといけなくてね。邪魔するなら斬り捨てるけど、どうする?」


多勢に無勢とでも思っているのか、ヴァルキア軍のライダーは俺の言葉を間に受けず笑い飛ばした。

「ハハハハッ〜 面白いことを言ってくれる。お前の目の前にいるのは誰か分かっているのか? ヴァルキア帝国北部方面軍、最上位ライダー、ドロイダス・メキデスだぞ。さすがに鉄血のドロイダスの名を聞いてはそんな舐めた口はもうできまい」


「鉄血の? いや、知らないんだけど」

「なんだと貴様! いいだろう……それではその体に俺の名を刻んでやる」


鉄血のドロイダスは殺気を込めて戦闘態勢に入り、俺に斬りかかろうとした。しかし、仲間がそれを静止しようとする。

「まっ、待て! ドロイダス! その白い機体は剣聖のエクスカリバーだ!」


しかし、その静止は遅かった。大きな剣で斬りかかってきた鉄血のドロイダスの魔導機の攻撃を軽く避けると、俺がカウンターで振った剣が頭部を簡単に切り飛ばした。


剣聖のエクスカリバーの名と、鉄血のドロイダスを瞬殺した剣技を見てエクスカリバーを取り囲んでいたヴァルキア軍のライダーたちに動揺が広がる。


しかし、すでに戦闘は始まっている。俺は遠慮なく、動揺して狼狽る敵の魔導機を次々と斬り伏せて行った。


剣聖襲来はヴァルキア軍全体に伝わったのか、包囲する軍は大きな動きを見せてきた。まとまった数の魔導機がエクスカリバーを倒す為にこちらに迫ってくる。


流石に数が多い。あの数に完全に取り囲まれると脱出が手間になる。俺は移動しながら敵を迎え撃った。


移動しながらの戦いは敵軍にさらなる混乱を招いていた。俺の狙いが読めないのか無秩序に動き回るだけで、陣形を崩していく。それを見ていた清音は突破のタイミングだと判断した。


山の頂への道が手薄になったのを見て、ライドホバーと清音たちが飛び出してくる。敵軍はエクスカリバーを追うのに夢中になり、その動きに気づくのが遅れた。敵が気づいた時にはライドホバーは山を登り始めていた。

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