第247話 敗北の現実/ユウト

アジュラは大破してもう動くことはない。僕はコックピットから脱出して外に出た。そして去っていくエクスカリバーの後ろ姿を茫然と眺めていた。


完全な敗北。自分がいかに非力か思い知らされた。何が大陸最強だ……


それにしてもあのエクスカリバーのライダーは本当に剣聖なのだろうか? 二度目の戦いだったけど、印象が全く違った。一度目の戦いでは無類の強者を感じ。この戦いでは次元の違う怪物と戦った印象だ。


「ユウト!」


そう言って近づいてきたのは、僕と同じように愛機を失ったロゼッタだった。彼女は腕を怪我しているようで左腕で右腕を庇っている。


「ロゼッタ。無事だったか」

「なんなのあのエクスカリバーの桁違いの強さは……」

「わからない。あの世から蘇ってパワーアップしたのかな」

「確かに冥府の王にでも魂を売ったのなら、あの強さも理解できるわね」


意地の悪い冗談でも言ったように苦い笑顔で彼女はそう言った。


僕たち三傑が敗北して、エリシア軍の士気は大幅に下がった。このまま全滅の可能性も頭をよぎったが、なぜかエクスカリバーは戦闘を継続することもなく、ライドキャリアへと帰艦していった。エクスカリバーのいない今なら士気を回復させて撤退することくらいならできそうだ。


近くの味方機に指示を出し、全軍に撤退の命令をした。混乱していた味方も、僕の指示で冷静になり、命令に従う。エクスカリバーがすぐに帰艦したことで、数的不利な敵軍も積極的に攻撃してくることはなかった。



「あんな化け物と戦って命があっただけで良しとするかな」


大破したガイアティアから回収されたエメシスは思ったより元気そうだ。怪我もなければ。僕と違い敗北にショックも受けているようにも見えない。


エリシアの三傑が揃って、こうやって大破した愛機を戦場に残してライドホバーで逃げるなんて場面を誰が想像できただろうか。


「それで、ユウト。これからどうするつもり」


ロゼッタがそう聞いてきたが、僕はすぐには答えることができなかった。代わりにエメシスが自分の意見を発言した。


「もうニトロ計画を阻止するのは無理だろう。こうなったら長いものには巻かれろだ。俺たちもラフシャル派閥に取り入ろうぜ」

「あなたにはプライドとかないの? 今さらあの怪しいラフシャルに尻尾を振るなんて」

「プライドだけで生きていけないだろうが。それに今日の敗北で時代の変化を感じないか? ニトロ隊や今日のエクスカリバーのように、今までの常識では通用ないような怪物が生まれている……もう、俺たちの時代は終わったんだよ。俺はこのまま古い時代に取り残されるつもりはない。ニトロルーディアを利用して次の時代でも中心にいるつもりだ」


「だからって自分の体を改造されるなんてまっぴらごめんよ」

「改造? ニトロルーディアは肉体を改造するものじゃないぞ。隠された力を解放するだけだ。使えていない自分の力を引き出すだけで、何も悪いことじゃないだろう」


「……── エメシス。ちょっと聞いていい……あなたラフシャル派閥に近づいて情報を得ていると言ってたけど、本当はそうじゃないんじゃない?」

「ふっ、勘の鋭い奴だな。そうだ。俺は最初からラフシャル派閥だ。お前たちを監視する為に黙ってこの計画に乗っていたんだ」

「いいようにあなたに踊らされてたようね。まあ、こんな敗北している身だし、今更どうこう言うつもりはないけど……」

「どうだ、ロゼッタ。お前もニトロルーディアで自分の隠された力を解放してみないか。もうこんな敗北を味わうこともなくなるぞ」


「ニトロルーディアは本当に改造されるわけじゃないの?」

「本当だ。改造じゃない。ただの覚醒だ」

「それを信じていいものか……」

「別に俺を信じる必要はない。利用するだけでいいんだよ」


「ユウト。黙っているけど、あなたはどう思ってるの?」

ニトロルーディア。大幅なパワーアップが見込まれるのは確かなようだけど……敗北後の話なので気持ちが弱っているのか、エメシスの話が魅力的なものに感じた。もう一度大陸最強に……


「エメシス。本当に改造ではなく、覚醒するだけなんだな? それが嘘だったら僕は君を許さないよ」

「本当だ。俺の命を賭けてもいい」


「……いいだろう。僕もニトロ計画に参加しよう」


もう引き返せないような気がする。だけど、もう、昔の自分に戻るのは嫌だ。自信のある自分を維持するには力が必要だ……。

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