第243話 圧倒的

「けっ、剣聖、どうして生きている!」


エメシスが外部出力音でそう問いかけてきた。この言葉の意味することは、オヤジがスカルフィに討たれたことを敵が知っていたということだ。もしかしたらスカルフィと敵が内通していた可能性も出てきた。


しかし、ここで敵の思惑を詮索している暇はない。三傑の連携の良さは十分わかっている。個々の力も侮れないと思っている。だけど、今は相手が誰であろうと時間をかけて戦う気はない。


急ぐ気持ちと、スカルフィや敵に倒する怒りを感じつつ、俺は冷静に敵の動きをみた。さすがの三傑もエクスカリバーを相手に不用意に攻撃してこなかったが、痺れを切らせたのかロゼッタのアグニアが最初に動いた。


アグニアが炎の魔導撃を発動した。渦巻く火炎がエクスカリバーに襲いかかる。避ける時間も勿体ない。俺は剣を振り炎を斬った。渦巻く火炎は真っ二つに割れ、空気に溶け込むように消滅した。


「うっ、嘘でしょう!!」

驚くロゼッタの反応など無視して次の行動に移る。


エメシスのハンマーが振り上げられたのを見て、体を回転させながらガイアティアに接近する。ハンマーを振り下ろすのを待ってる気はない。振り上げたハンマー目掛けて、気を集中して剣を振り、衝撃波を放つ。鋭い空気の塊は強固なハンマーを切り裂き吹き飛ばした。


「ぐっ!!」

エメシスはハンマーを破壊され、動揺を隠せないようだ。


ユウトはガイアティアへの攻撃の隙を狙って動いてきた。鋭く踏み込んでエクスカリバーとの間合いを詰める。そして下から突き上げるように剣を振って攻撃してきた。これを受けると打ち合いになると思い、力を込めて剣を叩きつけて弾き返した。ユウトのアジュラはエクスカリバーから繰り出される剣撃の威力を見誤ったのか、大きく後ろへ弾き飛ばされた。


悪いけど、終わらせてもらう──


俺は一歩踏み込むと、ハンマーを粉砕されて茫然としているガイアティアに向けて剣を一閃した。分厚そうなガイアティアの装甲が簡単に斬り裂かれ、ブシュブシュと蒸気のような物を吹き出した。ガイアティアは電池の無くなったおもちゃの人形のように停止して後ろへと倒れていった。


ガイアティアを倒してすぐに、再度、炎の魔導撃を繰り出そうとしているアグニアとの間合いを詰める。アグニアは慌ててエクスカリバーに向けて火炎を放った。俺はその炎を気にすることもなく一歩踏み込み、火炎ごとアグニアに剣を振り下ろした。


アグニアの頭部は剣圧で吹き飛び、エクスカリバーの剣がざっくりと斬り刺さる。剣を引き抜くと、アグニアは前方へとゆっくり倒れた。


ユウトはロゼッタとエメシスを倒されても動揺はしていないようだった。ゆっくりと剣を構えてエクスカリバーを牽制する。隙がないのは一目瞭然、今まで戦った相手では最強の存在であるのは否定しない……だけど……


大陸最強とじっくり剣を交えるのも悪くないが、今は遠慮することにする。俺は最大級に集中力を高める……一撃でユウトのアジュラを屠る剣……一閃では足りない……一で足らなければ十にすればいい。単純な発想だが、技のイメージはできた。練りに練った気を一気に放出して、イメージを開放する。


「十閃!!」


ユウトにはエクスカリバーの剣が消えたように見えたのかもしれない。アジュラは一歩も動くことがなかった。


エクスカリバーが剣を振り上げると同時に、十の光の線がアジュラに向かって走る。光は破壊を生み出し、アジュラに襲いかかる。両腕は斬り飛び、首が跳ね飛ぶ。胴部は一瞬でボロボロに代わり、足は崩れるように崩壊した。


大陸最強の存在が簡単に倒されるのを見て、エリシア軍が騒ぎ始めた。三傑は敵にとってはよほど大きな存在なのだろう。ある者は逃げ出し。ある者はその場に崩れ去り。この短い時間の戦闘で、敵の戦意は完全に喪失していた。


敵がどうしようと関係ない。俺は混乱する敵を無視して、ムサシへと向かった。

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