第242話 帰路無双

「エリシアのユウト……つ、強すぎる! 剣聖、剣王、剣皇……どうして剣豪団の三傑は誰もいないんだ!! ぐっ、ぐあぁああ!!」


剣豪団の通信から悲痛な断末魔が聞こえてくる。どうやら戦場ではエリシアの三傑が暴れ回っているようで、多くの剣豪団の団員が倒されているようだ。


「師匠〜!! スカルフィ師匠! どこにいるんですか!! 我々は完全に包囲されています! た……助けてください、師匠! うわぁあああ!!」


今のはスカルフィ一門のモドレッドの声だ……スカルフィは自分の弟子が倒されているのに何も思わないのか。


「無念……こうなれば三傑に一騎討ちを挑むのみ……我名は剣王が一番弟子ディアーブロ! いざ尋常に勝負!!」


それがディアーブロの最後の通信になった。おそらくは三傑の誰かに倒されたのだろう。


「嫌だ! お、俺は死にたくない!」

「鉄平! 逃げるのか!」

「すまない! 俺はまだやりたいことがあるんだ!」


どうやら鉄平が戦場から逃亡したようだ。仲間を見捨てて逃亡とは褒められたものじゃないが、それを責める気にはなれない。自分の命を守る権利は誰にでもある。



森を抜けて、エリシア帝国と剣豪団の戦っている戦場が見えてきた。パッと見ただけで戦況はエリシア帝国優位なのは一目瞭然、剣豪団は、物量でも戦力でも圧倒されていた。


剣豪団の生き残りは十数機ほど、ボクデン、カゲヒサはすでに撃沈している。剣豪団の生き残りはムサシの周りに集まり、最後の抵抗をしていた。


「くっ……みんな……」

清音がその状況を見て苦悩する。仲間が窮地のこの時、自分が何もできないことに苛立っているようだ。


敵は百機以上、さらにエリシアの三傑もいる。しかも、のんびり戦っている暇はない。最優先はオヤジをムサシまで連れて行くこと……


敵機がエクスカリバーが現れたことに気がついたようだ。ワラワラとこちらに群がってくる。オヤジの容態が心配なのと、急いでいるのを邪魔されてイライラと気が立ってくる。思わず俺は叫んでいた。


「邪魔するな!!」


声と同時に剣を振るう。怒りの剣は衝撃波を伴い、一振りで数機を粉砕する。さらに近づいてくる敵機を次々と斬り払っていく。


「どいてくれ!! 俺は急いでいるんだ!!」


乱暴な横一閃の剣は、前方で行手を阻んでいた敵を真っ二つに斬り裂いた。しかし、その時、大きな恫喝がコックピット内に響いた。


「勇太!!」


力強い声でそう声をかけられた。声の主は瀕死の状態のオヤジだった。

「オヤジ……」

「いつ、お前にそんな無様な剣を教えた! 怒りは力を増幅されるが技を鈍らせる。技は力を生み出すが、技無き力は強さとはなりえない。強くありたいなら冷静でいろ! うっ! ゴホッ、ゴホッ……はぁ……はぁ……いいか勇太……心の強さは表に出すもんじゃない。怒るなとは言わないが、それをコントロールするんだ……グホォ!!」


そう言い終えるとオヤジは大量に吐血する。

「父上!」

「オヤジ!」


「フゥ……き……清音……すまない……俺は馬鹿な親だ……」

「父上! 気をしっかり持ってください!」


「勇太……もう一度頼む……清音を守ってくれ……こいつは俺の大事な……──」

そこでオヤジの言葉が途切れる。


「何馬鹿なこと言ってるんだ!! オヤジ、死ぬんじゃねえよ! 自分の娘くらい自分で守れよ!! 何勝手なこと言ってるんだよ!」


「父上! 父上!! 勇太! 急いでください!」

「わかってる!」


俺は一直線にムサシを目指す。さらに敵機が近づいてくるが、走りながら斬り伏せ、急ぐ足を止めることはなかった。


「大先生!! みんな大先生が来てくれたぞ!!」


エクスカリバーの姿を見て、剣豪団の連中から歓喜の声が上がる。それによって戦場の空気が一変する。剣豪団のライダーたちの気力が持ち直し、動きがよくなる。


エクスカリバーの登場を、三傑が黙って見ているはずもなかった。ガイアティアが行手を遮るように立ちはだかり。アグニアが左から、アジュラが右からエクスカリバーへと迫ってくる。


邪魔だと苛立ちはピークを迎えるが、さっきのオヤジの言葉が頭をよぎる。俺は怒りの感情を抑えるのではなく、理解しながらも平常心を保った。

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