第244話 未知の恐怖/ユウト

エメシスから剣聖が騙し討ちされると聞いたのは、すでにそれが実行された後であった。実行したのは剣聖の弟子で、天下十二傑の一人、剣王スカルフィと聞いてさらに驚く。


「それで騙し討ちは終わったのか?」


「ああ、剣聖はすでにこの世にはいない」

「あまり誇れる話ではないが、これも戦争だということだな……それで剣聖を騙し討ちにしたスカルフィはこれからどうするんだ」

「最上級ライダーの条件でエリシアへの仕官を希望している。天下十二傑の一人だ。エリシア軍の上層部も断ることはないだろう」

「なるほど。まあ、自分の師を平気で殺して敵軍に寝返るような人物とはあまり仲良くなりたいとは思わないけど、これも戦国の世のさだめってところか……それで今はどうしてるんだ?」

「そんな裏切り者でも、自分の弟子とは戦うのは嫌なようで、この戦いの参加は拒否してきた」

「まだ人としての心は残っているようだな」


「それでエメシス。剣聖の暗殺の話はわかったけど、私たち三人がここで待機している理由を教えてくれる?」

ロゼッタの言うように、僕とエメシスとロゼッタは戦場から少し離れた森に待機していた。


「剣聖はこの先の森の奥で殺された。剣聖を助けに剣豪団の誰かがきたら救援を阻止するつもりだったが誰もこなかったようだな」


エメシスの説明の後、ロゼッタが何かに気がついてこう言った。

「いえ……大物が釣れたようよ」


見ると天下十二傑の一人、清音の魔導機、菊一文字がこちらにやってきていた。確かに大物だ……剣聖は殺され、剣王はどこかへ姿を消している。ここで剣皇を討てば剣豪団に恐れる敵はいなくなる。



さすがは剣皇、僕とロゼッタ、エメシスの三人がかりでも簡単に倒すことはできなかった。しかし、それでも最後は菊一文字を行動不能にする。とどめを刺そうと菊一文字に近づくが、それを新たな敵の救援が邪魔してきた。それは小さな魔導機で、戦闘用と言うより、土木作業用の魔導機のようにも見えた。その小さな魔導機は僕たち三人に向けて剣を構える。戦闘用ではないその質素な魔導機から妙な気を感じる。これは強者から感じる気配だが……


「ハハハッ〜 いくらなんでもこれは面白すぎる! 俺たち三人を相手に本気で戦う気のようだぜ。そうだ、思い出した。コイツ、前の戦いで俺のガイアティアに傷をつけた奴だ。どうやらあれで勘違いさせたみたいだな」


「エメシス。油断してはダメよ。こんな機体に乗っていても剣豪団の一員なのは間違いないのだから」

「油断なんてしないぜ。あの時の借りをここで返させてもらうだけだ」


戦闘が始まり、最初は強者の気配と、エメシスのガイアティアが傷付けられたこともあって警戒したが、気のせいだったようだ。ハイランダーくらいの戦闘力はありそうだけど、僕らの敵ではなかった。すぐにボロボロの状態に破壊した。


さらにロゼッタが破壊した魔導機を炎の燃やし尽くそうとしているのを静止する。

「ロゼッタ。その辺でいいよ。そろそろ戦場へ行かないと僕たち三人が不在では、戦況が微妙だからね」

「そうね。ゴミを燃やしても面白くないしね」

そう言うと彼女は炎を止めた。



戦場ではどちらもよく戦っていた。しかし、それも僕たち三人が来るまでだった。剣聖、剣王、剣皇の三人が不在ではいくら強者揃いの剣豪団でも、対抗する術がない。次々に撃破していく。


三隻の敵のライドキャリのうち二隻を撃沈させ、さらに敵魔導機の大半を撃破した。もう勝利は確実だと思っていたその時、剣聖のエクスカリバーが姿を見せた。


「エメシス! 話が違うわよ! 剣聖は健在じゃないの!」

「ばかな……ちゃんと始末したと言っていたのに……」


しかし、間違いなくエクスカリバーは健在で、味方の魔導機が次々と撃破されている。あの剣聖をこのまま無視しているわけにはいかない。僕とロゼッタとエメシスは、エクスカリバーを包囲するように近づいた。


状況に納得してないのか、エメシスがエクスカリバーの前に躍り出て、こう叫ぶ。

「けっ、剣聖、どうして生きている!」


もちろんその言葉の返事は返ってこない。どっちにしろ、最大の敵が目の前にいるのだ。僕たち三人は剣聖と対峙した。一度敗北しているからなのか、エクスカリバーから途轍もないプレッシャーを感じる。胸を締め付けられるような感覚に呼吸が不規則になる。


まずはロゼッタが動いた。得意の炎の魔導撃で攻撃するが、驚くことに、エクスカリバーはアグニアの炎を斬った。さらにガイアティアが攻撃しようと振り上げたハンマーを妙な技で粉砕する。


「うっ、嘘でしょう!!」

「ぐっ!!」


僕も驚いていたが、今は攻撃の好機だと思い。エクスカリバーとの間合いを詰める。そして剣を下段から振り上げるように振って斬り伏せようとした。だけど、何か巨大な岩でも叩いたような痺れる感覚と、ゴムか何かで弾き返されたような反発する力に僕とアジュラは吹き飛ばされる。


触れて分かったのだけど、信じられない力を感じた。今まで味わったことのない力……一度戦っているはずの剣聖よりさらに強大な何かをエクスカリバーから感じる。


一撃だった。ガイアティアが光が走ったと思った瞬間、破壊されていた。一瞬で行動不能になり、静かに倒れる。さらに一呼吸ほどの間に、アグニアもその強力な力の餌食となる。放った炎の魔導撃ごと斬り伏せら倒れた。


僕は気持ちを落ち着かせる……冷静に……いくら剣聖でも、僕なら勝てるはずだ……隙を見つけろ……ルーディアを集中するんだ……


見ると、すでにエクスカリバーは剣を振り抜いていた。それに気がついた時には遅く、強烈な衝撃が襲いかかる。アジュラがバラバラに壊されていくのが感覚でわかった。竜巻にでも巻き込まれたような意味不明の衝撃になす術もない。


なんだ……これは……なにが起こったんだ……僕はなにと戦っていたんだ……


衝撃がおさまった時には、アジュラはピクリとも動かなくなっていた。

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