第228話 消えた敵

バルミハルに侵攻してたエリシア軍は、剣豪団との最初の戦闘を終えてから姿を消した。バルミハル軍の斥候が必死に探したがその痕跡すら見つけられていなかった。


「父上。どうしますか? このまま基地で待機するか、それとも我々もエリシア軍を探すか……」

「探す意味はなかろう。こっちはどんと構えて待っていればいい。下手に動き回って気力を浪費するのは馬鹿らしいだろ。姿を消した敵の狙いもそこだ。疲弊と攻撃のタイミングを狙っているんだ。敵の掌で踊る必要はないだろう」


「ですが、スカルフィたちは必死で敵の行方を追っているようです。その馬鹿な浪費をしているようですが、放っていて良いのですか?」

「たく、感情だけで動きよって……わかった。スカルフィには俺から話をしておく。皆はいつでも戦えるように準備だけして、あとは休息をとるように」


オヤジの判断は正しいように思う。敵はスカルフィ一門との戦いには勝利したけど、清音一門との戦いでは敗北した。全体的な戦力の把握と攻撃のタイミングを図っているに過ぎない。待っていれば必ず攻撃を仕掛けてくる。わざわざこちらから探す必要はないだろう。



しかし、オヤジのスカルフィの説得は失敗に終わった。合流の話も聞く耳を持たず、単独での敵の捜索を続けているようだ。説得できなかったオヤジは、落胆した表情で、フラフラとどこかへ向かった。その姿を見た俺と清音が顔を見合わせる。そして二人で同時に動き出し、オヤジを追いかけた。


オヤジはムサシの甲板の上に出ていた。娘と似たような行動に、血の繋がった親子だと実感する。


「どうやら俺は親としては未熟者のようだ」

俺と清音の姿を見て、そうボヤいた。

「おい、おい。娘と息子を前に何情けないこと言ってんだよ」

「そうです、父上。スカルフィはプライドの塊のような人間です。彼の行動を諫められなかったからといって父上に責任はありませんよ」


「どんな人間でも、弟子に認めた時から俺の息子だ。行動全てに俺は責任がある。今、あいつを止めなければ取り返しのつかないことになる。だけどそれができなかった」


オヤジは思い詰めたようにそう言う。さらに言葉は続く。


「敵は見えないが、あちらからはこちらの動きが見えている。間違いなく、スカルフィたちは孤立したところを狙われて強襲されるだろう。いくらスカルフィでも、エリシアの三傑を同時に相手にして勝てる見込みはない。そんな無謀な戦いに、己だけではなく弟子たちも巻き込んでいる。それがわかっているのに、間違った息子を止めることもできないなんて情けない限りだ」


オヤジのセリフを聞いて、ちょっと思いついたことがあったので言ってみた。

「そこまでわかってるなら助けに行けばいいだろ」


俺の言葉にオヤジは顔を上げて反応する。


「スカルフィたちを狙って敵が動いてくるんだろ? だったらそれを利用すればいい。敵は見えなくてもスカルフィたちの場所はわかるんだから、対応できるだろ」


「そうか、その手があった! 勇太、お前もたまには頭のいいこと思いつくな」


褒められてるのか微妙な言葉だが、オヤジは何かを思いついたようだから良かった。


「スカルフィたちを囮にするなんて私や父上には思いつきもしません。勇太、感謝します」


清音からも礼を言われて戸惑う。まあ、これで姿を消した敵の対応もできるし、スカルフィたちを助けることもできる。一石二鳥とはこんな時に使う言葉だろ。


ムサシは、すぐにスカルフィ一門の位置を把握して、移動を開始した。もしかしたら敵はこちらの動きも見ている可能性があるので、警戒しながらの隠密行動である。


「父上、スカルフィたちにこちらの動きを伝えますか?」

「いや、それでスカルフィたちの行動が変わって、敵に悟られると厄介だ。どうせ言っても聞きはしないだろうから、放っておけ」


確かに天邪鬼な連中なので、助けにきていると伝えるとどんな行動をするか予想できない。ここは黙って助けに入るしかないだろう。


スカルフィ一門のボクデンとカゲヒサを目視できる位置まで近づいた。すでに敵が動いている可能性があるので、ムサシは岩陰に隠し、周りを警戒する。


「無防備で狙ってくれと言ってるようなものだな」

ボクデンとカゲヒサの様子を見てオヤジがそう呟く。


「もしかしたらそれがスカルフィの狙いかもしれません」

清音の言葉にオヤジが表情を厳しくする。


「馬鹿が……自分を囮にして敵を誘い出してるのか……全員、出撃準備だ、すぐにでも動きがあるぞ」


オヤジの予想は的中した。ボクデンとカゲヒサを取り囲むように、エリシア軍が姿を現したのだ。

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