第227話 勝利と敗北

ロゼッタのアグニアは、清音の菊一文字の斬・旋風剣を受けてヨロヨロと後退する。清音はロゼッタを追撃した。


「くっ……なめるな剣皇!」


アグニアが両手をクロスに振ると、追撃しようとした菊一文字に向けて渦巻く炎が放射された。菊一文字は横に飛んでそれを避ける。


避けた場所で菊一文字は膝をつき、低い体制で剣を構えた。さらにアグニアから炎が放たれるのを見ると。その軌道を見極め避け、飛びかかるように加速してアグニアに神速の剣を浴びせた。


炎の放出で隙ができていたロゼッタは、清音の剣を避けることが出来ず肩に直撃させた。ダメージを受けアグニアはフラフラと退がる。


「フッ。さすがは私と同じ天下十二傑の一人── とっておきは対剣聖用に温存していたけど、今、使うしかないようね──」


そう言うと、ロゼッタは両手を上にあげた──


だが、何かを放とうとしたアグニアにエリシア軍の一機の魔導機が助けを求め、ヨロヨロと縋り付こうと近づいてきた。その魔導機はアグニアの目の前で倒れて動かなくなる。


清音とロゼッタの戦いに集中していたから気がつかなかったが、すでに戦況は決していた。エリシア軍は、アグニア以外の魔導機はすでにオヤジたちに撃破されていた。最後の一機が、ロゼッタに助けを求めてきたようだ。


周りの敵が全て倒れ、オヤジのエクスカリバーもアグニアの前に現れる。それを見たロゼッタは自分の状況を理解した。


「どうやらこの戦いはこちらの負けのようね。悪いけど出直させてもらうよ」


そう言って逃げようとした。


「逃しません!」


清音がそう叫びながら加速して剣を振るをうとしたが、目の前に炎の壁が現れて停止した。炎の壁は倒れているエリシア軍の魔導機を巻き込んで、装甲をドロドロに溶かしていた。かなりの高温のようで、清音もその炎に飛び込むのを断念した。


そのままロゼッタには逃げられたが、この戦いは剣豪団の完全勝利のようだ。


「申し訳ありません。炎帝に逃げられてしまいました」

「いや、十分な戦果だろう。20機近い敵を倒してこちらの被害は0だ。欲張ってもろくなことはない。今はこれで満足するべきだな」


倒した20機の敵機のほとんどをオヤジが倒したと、後でトリスに聞いた。エリシアの精鋭ライダーを瞬殺していく姿は圧巻だったそうで、それを見逃した俺は後悔した。


清音一門は勝利に終わった初戦だが、スカルフィ一門の方は芳しくなかったようだ。どうやらスカルフィ一門が戦ったエリシア軍には、ユウトとエメシスの二人の天下十二傑がいたようで。数でも劣勢だったこともあり、こてんぱんにやられたようだ。


「それでスカルフィはなんと言っているんだ。こちらに合流する気はないのか?」

オヤジがスカルフィ一門を心配してそう言ったが、通信で話をした清音が首を横に振った。

「その意思はないようです。このまま引き下がる気はないようで、スカルフィ一門だけで汚名を返上する気のようです」


「馬鹿なやつだ。何を意地になっているのか……」


そう呟くオヤジの顔は、どこか悲しそうだった。



清音一門はバルミハルの基地に入り補給を受けた。そのまま基地にムサシを駐留させて、次の戦いに備える。



ムサシの甲板の上。気分転換にやってきたのだけど、そこには先客がいた。


「そんなところでボーっとして何してるんだ、清音」


清音は硬い甲板の上で正座して空を見ていた。そのまま微動だにしないで、こう答えた。


「雲を見ているのです」

「雲? そんなの見て、何が楽しんだ?」

「楽しむ為に見ているのではありません」

「じゃあ、なんの為だよ」

「雲を見ていると落ち着くのです。冷静になって何かを考えたい時にこうやって見たりしています」

「何か悩みでもあるのか?」

「……──以前から懸念していたけど、このままでは剣豪団は分裂してしまいます。スカルフィと私ではあまりに考え方が違う……どうすればいいのか悩んでいるのです」


「そんなことで分裂してしまうなら、分裂してしまった方がいいと俺は思うぞ。無理に一緒に行動する必要はないだろ。オヤジもスカルフィには教えることはもうないって言ってたし、独立してもいいんじゃないか」


「武に対しての才は認めますけど、貴方も人の心をみる力はまだまだですね。いいですか。父上がいくら教えることはないと思っていても、スカルフィ自身は父上からまだ学びたいと思っているのです。本当に父上を超えたと思うまで、スカルフィは父からの教えを放棄したりはしないのです」


「よくわからないけど、自分の成長を実感できていないってことか?」

「そうです……それは凄く悲しいことかもしれません」


そう話す清音は、空を見ていた目線を自分の手元に向けた。それはどう言う意思表示なのか、まだまだ心をみる力がない俺にはわからなかった。

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