第215話 一閃

横振りの剣は通用しないと思ったのか、鉄平は上段に構えた。一呼吸おいて、鋭い踏み込みと同時に、ナマクラを押しつぶす勢いで剣を振り下ろした。


かなりの強撃だが、当たらなければ問題ない。俺はナマクラの立ち位置を斜めにずらし、振り下ろされた鉄平の剣を紙一重で避けた。


しかし、その動きは読まれていたのか、地面を抉り取った鉄平の剣は軌道を変え、避けたナマクラの方へと向かってきた。ナマクラの動きではこの攻撃は避けらない。俺は刀身を下に向け、振り上げる鉄平の剣を上へ滑らせるようにいなした。


周りのギャラリーは、二度の勝機をすかされ、ため息混じりの落胆の声を上げる。落胆から生まれたイラつきはやがてヤジとなって飛び交い始めた。


「おら、鉄平! 何してるんだ。そんなポンコツに何を手間取ってるんだよ!」

「ナマクラにクレイモアを傷つける攻撃力などないだろ! もっと強引に攻めろ!」

「馬鹿野郎! 秒殺しろって言っただろうが! 今月の小遣いどうしてくれんだよ!」

「ナマクラも避けてばかりいないで攻撃しろよ!」


ヤジは耳に入ってくるが全く気にならなかった。これもオヤジとの集中訓練の賜物だろう。しかし、鉄平はヤジが気になって仕方なかったようで、明らかに動きが変わった。言われるままに、強引な攻撃を繰り出してきた。


両手剣を不規則に振り回してきた。がむしゃらに振り回しているようで、一撃一撃は腰の入ったしっかりとした攻撃なのが厄介である。この一撃を弾き返す力はナマクラには無い。俺は逃げるように後退して攻撃を避けた。


「勇太! 退がるな!」


それを見たオヤジから檄が飛ぶ。その言葉にハッと気づかされる。後退して一時的に避けても、問題の解決にはならない。俺は退がるのをやめて、クレイモアから繰り出される激しい攻撃に集中した。


ここで初めて、オヤジの流派の強さを認識した。鉄平の剣撃は今まで戦ってきた相手の中でも頭飛び抜けて高い。ほとんどの攻撃は避けるが、避け切れない攻撃はリスク覚悟で受け止める。攻撃をまともに受けた時、ナマクラの機体がギシギシと軋む。避けたはずの攻撃の一部が機体をかすめ、装甲を傷つける。


長く持ちそうにはない……どうすればいいんだ……


そんな時、洞窟での修行の終盤に言っていたオヤジの言葉を思い出した────


「勇太、ルーディア値ってなんだろうな」

「そう言われればなんだろうな、考えたこともなかった」

「俺はな、ルーディア値ってのは心の強さだと思ってるんだ。気持ちの強さと言ってもいいかもしれん。魔導機に乗っていると、実感することがあるんだよ。もっと力強く、もっと素早く、そう思いながら気持ちを乗せると、実際に強く、早くなるんだ。ルーディア値の本当の正体はわからないけど、長く魔導機に乗っている俺の結論はそれに辿り着いた。いいか、勇太。ヴェフト流は魔導機に乗ってもその強さを発揮する。それはヴェフト流が心を重要視するからだ。技を磨いて気持ちを込めろ、それが強さを生むんだ」


────ルーディア値100万超えの俺に、オヤジがどうしてナマクラに乗ることを望んだか今ならわかる。


俺はもっと強くなれる──


修行を思い出して意識を集中するんだ……鈍を名刀に、今の俺ならできる。ルーディア集中の感覚に、修行で培った想像力をプラスする。意識の中に深く潜るだけではダメだ。創造しろ。作り出せ……新たな力を生み出すんだ。


「なっ……なんだあの光は!」

「ナマクラからオーラが!」


「オーラの視覚化……嘘でしょう……起動ルーディア値1000のナマクラで光圧現象だなんて……」


清音の声が近くで喋っているように聞こえる。言葉の意味も理解しながらも俺の集中力はさらに高まっていく。


ゆっくりと剣を上段に構えた。すでに創造はできている。ナマクラの剣は全てを断つ必殺の剣だ。


「一閃!!」


俺の振った剣は光となって、とっさに剣で防御したクレイモアを、その両手剣ごと斜めに切り裂いた。


クレイモアは首元から右脇腹あたりにかけて、機体がゆっくりとずれていく。そして地面に崩れるように倒れていった。

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