第214話 修行の成果
剣豪団の仕事の依頼元であるターミハルへの移動途中、広い渓谷で小休止とあいなった。本来、ライドキャリアでの移動なので休みの必要もないのだが、俺と鉄平との模擬戦の為にわざわざ時間が作られたようだ。
剣聖ヴェフトの三番目の弟子である俺の戦いは、剣豪団の団員たちに、かなり悪い意味で注目を集めていた。集まった観戦者のほとんどは、始まる前から鉄平の応援をしている。
「鉄平はスカルフィ一門だから、そっちの人間は鉄平を応援するのはわかるけど、清音一門も、向こうを応援しているみたいだな」
模擬戦前の準備には清音とブリュンヒルデが付いてくれていた。二人に愚痴のようにそう言うと、表情も変えずに事実だけが伝えられた。
「私の弟子たちも貴方を良く思っていませんから……残念ですけど、父上以外で貴方を認めている者はここにはいません」
「うわっ、嫌われてるんだ」
「嫌いとは違います。ただ妬ましいだけだと思います」
「まあ、とにかく、オヤジに恩を返すにはみんなに認めてもらわないとな……まずはこの戦いに勝つことにしよう」
「怪我をすると父上が悲しみます。せいぜい無理しないように……」
俺は清音の言葉に頷くと、ナマクラに乗り込んだ。
俺は操作球に手を置いてナマクラを起動する。ぎこちない音だが、なんとか正常に動き出した。
「もうすぐ模擬戦を開始する。両者とも舞台の中央へ」
模擬戦を仕切るのはスカルフィの一番弟子のディアーブロという人物であった。魔導機同士の模擬戦を取り仕切るのに、ディアーブロもソードブレイカーという魔導機に搭乗していて、外部出力音で俺と鉄平に指示を出していた。
ディアーブロの指示通りに舞台の中央へとナマクラを進める。ギーギーと変な音を発しながら歩くと、周りから笑い声が聞こえてきた。鉄平のクレイモアが歩いて模擬戦の舞台の中央に来ると、笑い声が声援に変わる。
「この戦いは模擬戦だが、実践に近いかたちでおこなう。どちらかが降参するか、魔導機が行動不能になったら終了だ。双方全力を尽くすように」
ディアーブロがそう言い終わると、鉄平が俺に話しかけてきた。
「勇太、悪いけど、完膚なきまでに叩きのめさせてもらうぞ」
「鉄平、お前にそれができるのか?」
「どこからそんな余裕の言葉が出てくるんだ? こっちはハイランダー専用機、そっちは立ってるのもやっとのポンコツ魔導機だぞ」
「鉄平、お前はオヤジ……いや、剣聖ヴェフトの剣技を見たことがあるか?」
「いきなり何を言い出すんだ? そりゃ、同じ剣豪団だ。何度か見ている」
「じゃあ聞くが、木剣を持った剣聖ヴェフトに、真剣を持ったお前は勝てると思うか?」
「おいおい……お前は自分が剣聖にでもなったと思っているのか! 少しくらい、大先生に直接指導してもらったからって調子に乗るなよ!」
別に挑発するつもりで言ったわけではなかったけど、鉄平はそうとらえたようで、怒りの声をあげる。
「無駄口はその辺にして模擬戦を始めるぞ。どちらも言葉で論ずるより、その剣をもって、自分の正しさを主張せよ!」
少し怒られ、俺と鉄平は押し黙った。一呼吸おいて、ディアーブロから開始の声がかかった。
「それでは模擬戦開始!」
その掛け声と同時に、鉄平が幅広の両手剣を思いっきり横殴りに振ってきた。俺はそれを後ろに飛んで避ける。ナマクラの跳躍はぎこちないが、なんとかギリギリで鉄平の剣を避け切れた。
鉄平は体を回転させて、両手剣を振りながらナマクラに迫ってくる。さっきのナマクラの跳躍の感じだと避け切れないと判断した俺は、踏ん張って剣でそれを受け止めた。
ナマクラの武器は、日本刀のような刀身の細い剣で、鉄平のクレイモアが振る両手剣の半分ほどしかない。まともに受ければ剣を折られる危険もあるし、ナマクラの力ではそのまま強引に押しこまれる可能性もあった。俺は剣を斜めに受けて、鉄平の両手剣の軌道を上に逃した。
これはオヤジの無茶苦茶な豪剣を受けるべく工夫して取得した技で、初めて成功した時はオヤジにかなり褒められたのを思い出す。
鉄平のクレイモアの両手剣が宙に空振りすると、周りから驚きの声が上がった。ほとんどの者が、今の一撃で勝負が決まったと思ったようだ。
しかし、勝負はここからだろう。剣の振りや、構えを見ると、鉄平も剣の修行を真面目にやっているようで隙がない。長期戦になれば魔導機の耐久力からして、ナマクラに勝ち目はないように思えた。
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