第213話 模擬戦

さっそく魔導機ナマクラの乗り心地を確認してみることにした。開くと軋みそうなハッチを開いて、コックピットに乗り込む。コックピットの中の広さはアルレオよりかなり狭く、大柄なロルゴやメカニックの双子だと入るのも難しいだろう。


ごわごわの椅子に座ると、操作球に手を置いてナマクラを起動する。キーキーとうるさい起動音が響き、機器に電源が供給されていく。外の様子がスクリーンに映し出されたけど、解像度が悪いのか画質が悪い。まあ、敵味方の識別には問題ないレベルだし、距離感などにはそれほど影響ない感じだし大丈夫かな……


歩いてみたけど、やはり動きがぎこちない。バランスも悪く。フラフラする感じがちょっと操作感を悪くしている。ナマクラという名は伊達じゃないな、こいつで戦うとなるとかなり苦労しそうだ。


「勇太、実際に乗ってみてどうですか。今ならまだ間に合いますよ」


起動から歩くまで、俺の動きを見ていた清音がそう言ってくる。


「いや、思ったより快適だよ。これならなんとか戦えそうだ」


もちろん強がりだが、オヤジが言ったように、常に恵まれた状態で戦えるとは限らない。この劣悪な魔導機を乗りこなせるようになれば、もう一段、成長できるような気がする。


ナマクラの試し乗りを終えると、ブリュンヒルデが俺が寝泊りするゲストルームへと案内してくれた。ゲストルームはライドキャリア、ムサシの一室で、フガクの自分の部屋に比べたら狭くて、ベッド以外何もない部屋だけど、寝泊りするだけならなんの問題もなかった。


「食事はいつでも、キッチンルームにいる担当に言えば出してもらえます。お風呂はムサシに大浴場がありますので、そこを利用してください。他に何か質問はありますか?」


「いや、十分だよ。ありがとう」

「それでは、私はこれで失礼します── あっ、そうでした。大先生が部屋を教えたら、リザクレーションルームにくるように言っていました。リザクレーションルームはそこの階段を登って正面の部屋です」


「わかった。すぐ行くよ」


ブリュンヒルデは自分の仕事を終えた安堵からか、ほっとした表情で、どこかへ去っていった。ブリュンヒルデを見送った後、言われたようにリザクレーションルームへと向かう。


リザクレーションルームでは清音とオヤジが飲み物を飲んで寛いでいた。

「おう、来たな勇太」

「なんだよ、オヤジ、何か話か」


「ちょっと相談というか、問題があってな」

「問題?」


俺が不思議そうにそう聞き返すと、オヤジの代わりに清音が話し始めた。

「あなたに模擬戦の申し込みが来ています。相手はスカルフィ一門の鉄平で、明日にみんなの前での魔導機による戦闘を望んでいます」


「そのどこが問題なんだ」

「お前な、鉄平の魔導機、『クレイモア』はハイランダー専用機で、優秀な機体。一方、お前のナマクラは剣が振れるかどうかも怪しい凡機だぞ。この絶対的な差がある二機の模擬戦、それが何を意味しているかわかってるのか?」

「いい勝負になりそうだな」


「ハハハハッ、やっぱりお前は最高だよ、勇太。よし、それじゃ、引き受けていいんだな」

「模擬戦だろう? 実戦前にナマクラを試すにはちょうど良いから問題ない」

「そうだな、確かにそう考えればメリットはあるか」


俺とオヤジはすでに模擬戦を受ける方向で考えていたが、清音が凄い勢いで反対してきた。


「ちょっと待ってください! 鉄平、いえ、この申し込みをしてきたモドレッドには悪意を感じます。勇太がナマクラに搭乗する事を知ってて、ハイランダーで、旧友である鉄平との模擬戦を仕組むなんて、どういう意図か予想できます!」


「どういう意図なんだ?」

「模擬戦であなたを完膚なきまでに叩きのめし、剣豪団の中での立場を悪くする……いえ、下手をすると大怪我させてそのまま追い出す気かもしれません」

「どうしてそんなこと考えてるんだよ」


「ふぅ〜…… よいですか、貴方は、パッと出てきて、いとも簡単に剣豪団の団員に尊敬されている剣聖ヴェフトの弟子になったのですよ! 自分が望んでも叶えられなかった、剣聖の弟子という立場になったなった貴方を、皆がどう思っているか想像すればわかるでしょう!」


「他人がどう思おうが、師弟関係は俺とオヤジの二人の問題だからな。それを妬んで何かをしてくるなら好きにすればいい。俺はそんな奴らに負けないし、思い通りにはならないよ」


「だけど、物理的にハイランダー専用機とナマクラでは……」

清音がそう言いかけた時、オヤジが力強い口調でこう言い切った。


「清音! お前はヴェフト流の基本を忘れているのか? 心技一体。今の勇太には心がある。俺が教えた技もある。それが一つとなり成長しようとしているのに、物理的にはだ、ハイランダーとナマクラではだと、そんな戯言を言いよって……お前はいつから想像だけで戦いの結果を予想するようになった。お前は勇太の力をどれくらい知ってるんだ?」


「……確かに私は勇太の力を知りません。わかりました。明日の模擬戦は了承します。ただし、その模擬戦の内容次第では、勇太、あなたには剣豪団から出て行ってもらいます。剣豪団に弱者はいらない!!」


そう言うと清音は、怒った感じでリザクレーションルームから出て行った。


「俺、何か悪いことしたかな?」

オヤジにそう言うと、笑いながらこう言った。

「ハハハハッ、なんだかんだ言っても、一番、嫉妬してるのが自分だって気がついたんだろう」


ちょっと意味がわからなかったけど、オヤジはちょっと嬉しそうにしてるので、あまり深く考えないで良いような気がした。

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