第212話 なまくら
軍議が終わり、オヤジが数人の人間を連れて俺のところへやってきた。現れたオヤジが一人の人物を紹介してきた。
「勇太、こいつが俺の一番弟子、スカルフィだ。おい、スカルフィ、さっき話したお前の弟弟子の勇太だ」
スカルフィと呼ばれた男性は、想像していたよりスマートな優男で、剣豪といったイメージとはかけ離れていた。銀髪の長い髪が印象的で、鋭い眼光は達人の雰囲気を醸し出していた。
「ふっ、まさか弟弟子ができるとは思ってなかったな。勇太、私がスカルフィだ。兄弟子としてできることがあったらなんでも言ってくれ」
近づいてくる時は睨むような表情だったけど、話す前にその表情は崩れ、笑顔でそう言ってくれた。さっきのスカルフィの弟子の態度からあまり良い印象を想像してなかっただけに、優しそうなその振る舞いに安心した。
「それで、勇太の魔導機なんだが、何か良い機体はあるのか?」
オヤジが俺の乗る魔導機の話を清音とスカルフィにした。するとすぐに清音が答える。
「余っていた魔導機は、先月、スカルフィの弟子の一人に与えたので今はありません」
すぐに清音がオヤジにそう現状を伝える。
「清音、何を言っているんだ。ボクデンに一機、魔導機があるじゃないか。あれを勇太に使ってもらえばいい」
その言葉にすぐに清音は表情を変えて反論する。
「ボクデンにある機体って……スカルフィ、それはもしかして『ナマクラ』のことですか? あれは未熟者の訓練用で、実戦で使えるような魔導機ではありません。いくらなんでも酷すぎます」
「何を言ってるんだ、清音。勇太はあの剣聖ヴェフトが認めた男だぞ。しかも洞窟の修行で直接、二ヶ月も師より指導された身、『ナマクラ』でも十分、その力を発揮してくれるだろう」
そう言うスカルフィの表情はどことなく怖かった。さっきの笑顔があるから尚更恐怖を感じる。オヤジは清音とスカルフィの意見を聞いて、俺にこう尋ねた。
「勇太。『ナマクラ』は起動ルーディア値1000の土木用魔導機ほどの性能しかない凡機だ。お前が嫌なら購入してでもまともな機体を用意してやるがどうする?」
一回の仕事の手伝いをするだけの俺の為に、魔導機を購入させるのは悪い気がする。それにオヤジが俺にそう尋ねたにはちょっと含みがあるように感じた。
「オヤジの本音はどうなんだ。その『ナマクラ』で俺の修行の仕上げに支障はないのか?」
「剣士がいつも名刀を振るえるとは限らない。時にはその辺の棒切れでも敵と戦うこともあるだろう。剣豪団としてお前に戦力は求めない。弟子としての修行と、手伝いということであれば『ナマクラ』で事足りるだろう」
「そうか、なら、その『ナマクラ』を俺に貸してくれ。それで十分だ。ただ、戦力としてもあてにしてもらって構わない。その機体で人一倍役にたつからみていてくれ」
そう答えると、オヤジは豪快に笑った。清音はため息を吐き、スカルフィは微妙な表情で俺を睨んだ。
ナマクラは想像以上にボロボロの魔導機であった。大きさも通常のサイズより一回り小さく、腕は細いし、足もヒョロヒョロだ。明らかにパワーはなく、装甲は紙のように薄いだろう。だけど、不思議と不安はなかった。オヤジとの剣の修行の賜物か、不安に思うより先に、これでどう戦うか、思考は前向きに考えていた。
装甲が弱いのは当たらなければ良いだけだし、パワーが無いのは気合でカバーすれば良いだろう。問題は剣を持てるだけの力があるかどうかと、歩くだけでバラバラにならないか、その心配だけであった。
「今からでも遅くありません。勇太、別の機体を用意してくれと、父上におっしゃってください」
「いや、本当に良いんだって、これで戦ってみせるよ」
「戦場では常にあなたのフォローができる状況だとは限らないのですよ! 討ち取られてから後悔しても遅いのです!」
「大丈夫、そもそもこっちは役に立つように戦うつもりなんだからフォローなんていらない。足手まといにはならないから普通の戦力としてみてくれれば良いよ」
最後まで心配していた清音も、俺が折れないので諦めたようだ。代わりにブリュンヒルデに何やら指示を出している。もしかしたら戦闘中、俺から目を離すなとかそういう話かもしれない。
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