第209話 不意の再会
修行した洞窟のすぐ近くに、オヤジが出てくるのを待っていたのかキャンプが設営されていた。そこに用意されていたのは大量の食事であった。種類も豊富で、三日も何も食べていなかった俺とオヤジはもの凄い勢いで貪り食った。
「清音、酒はないのか!」
オヤジがそう言うと、眉をしかめた清音はこう言い返した。
「食事後に、すぐに軍議を行います。本日の飲酒は控えてください」
「俺の思考が酒くらいでブレると思っているのか? いいから持ってこい」
「ダメです。仕事中の飲酒は禁止だと前にも言ったでしょう。いい加減にしてください父上」
「チッ、融通の効かない娘だな。だから二十歳になっても嫁の貰い手がないんだよ」
「融通が効かなくて結構です。嫁に行く気もございませんので問題ありません」
そんな親子の言い合いをしながらも、オヤジと俺は食べるのを止めない。まともな食事が久しぶりなのもあるけど、この料理は驚くほど美味い。さらに言うならどこか懐かしさを感じる。味付けが和食に似ているからだろうか……
「オヤジ、本当に美味いな、これなんて俺の国の『肉じゃが』って料理にそっくりだけどなんて名前なんだ」
「そのまま『肉じゃが』です。俺の国っていうことはあなた、日本人なんですか?」
清音がちょっと驚いたようにそう聞いてきた。清音が驚いたように俺も驚いたが、先に質問に答える。
「そう。俺は日本人だ。この世界に転移されてきたんだよ」
そう言うと清音の表情が変わる。言葉が止まり、何か妙な感じに想いにふける。オヤジが清音の代わりに心情を説明してくれた。
「そいつの母親は日本人なんだ。その母親も5年前に流行病で亡くなったから、それを思い出しているのだろう」
あっ、だから清音って和風な名前なのか── そう思ったが失礼かと思い口には出さなかった。
「そうだ、剣豪団にも一人、日本人がいるんだ。年頃も勇太と近いし、もしかしたら知り合いかも知れないな」
「いや、流石にそんな偶然ないだろう」
そう思っていたのだけど、紹介すると言って現れたのはまさかのクラスメイトだった。
「嘘だろ、勇太じゃないかよ! お前、よく生きてたな!」
現れたのは野球部だった木山鉄平だ。それほど仲が良かったわけではないけど、不意の再会にお互い喜ぶ。
「鉄平も元気そうで良かったな」
「いや、俺はハイランダーだからな。この世界、高ルーディア値だと、どこにいっても高待遇だから楽なもんよ。それより、勇太だよ。お前、ルーディア値2のゴミ数値だろ、奴隷になったて聞いたし、心配してたんだぞ」
鉄平は本当に心配していたのか疑問に思うくらい嬉しそうにそう話す。
「いや、そのルーディア値2だけど間違っていてな──」
「間違ってた……そうなのか? それで本当のルーディア値は幾つなんだ、100か? 200か? いや、鉄板の笑い話のネタだったからよ、はっきりしてくれよ。逆に1とかだったらさらに話が盛り上がるんだけどよ。頼むよ、勇太、早く教えろよ〜」
どうも小馬鹿にした感じの言い回しに悪意を感じるな……ちょっと怒ろうかと思っていると、俺より先にオヤジがキレた。
「鉄平! お前はスカルフィの元で何を学んでいるんだ! ルーディア値なんて数値に惑わされよって! ヴェフト流は心技一体が基本! お前は心が全く成長していないぞ!」
「しっ、しかし、大先生! こいつは……」
「うるさい! 俺の愛弟子を愚弄する奴は、いくら孫弟子でも許さんぞ!」
「ま……愛弟子! 勇太が大先生の弟子……」
「いいから、もう戻れ! 飯が不味くなる!」
そう言われて鉄平は、逃げるようにその場から去った。
「すまんな、勇太。気を悪くさせてしまったな」
「いや、オヤジが俺の言いたかったことを言ってくれてスッキリしたよ」
俺とオヤジは笑いながら食事を続けたが、清音は真顔でオヤジにこう助言する。
「父上、鉄平も孫弟子であるのは間違いありません。ただでさえスカルフィの弟子たちの間では、父上が直接指導してくれない不満が溜まっているのに、あのように叱咤されると何を思うかわかりませんよ」
「俺は孫弟子の太鼓持ちじゃないぞ、間違っていることを間違っていると言って何が悪い!」
「もう少し配慮されてはどうかと言っているのです!」
こうしてオヤジと清音の言い合いが再加熱する。俺はそれをBGMに故郷の味を堪能するはめになった。
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