第208話 外へ
いきなりゴトゴトと大きな音が洞窟内に響いいた。何事かと思って音の方向をみる。
「なんと、塞いだ入り口を開けようとしているな」
魔導時計の予定では、まだ一日早い。オヤジも想定外のようで何かを懸念して表情が険しくなる。
塞がれていた入り口が開かれ、入ってきたのは、和服の雰囲気のある、この世界では珍しい衣服を着た女性であった。薄い青色の長い髪を結っていて、はっきりとした顔立ちはスーパーモデルのような美しさがある。
「父上、申し訳ありません。ターミハルより至急の仕事の依頼があり、予定より早いですが入り口を開かせて頂きました」
「そうか、ターミハルからとなると、エリシア帝国がらみだな」
「はい。エリシアに大規模な軍事行動があったようでして、ターミハル軍を初めとして、三国同盟全てが臨戦態勢に入っております」
「ならば、急ぎ行かなければいかないか……」
オヤジの表情は、二人っきりの修行時には見せない、傭兵団の団長としての顔を見せていた。女性はオヤジのことを父上と言っているので、彼女が二番弟子の清音だろうか。
「それより、父上、その者は誰ですか? 見ない顔ですが、いつの間にこの場所へ?」
「おう。清音にも紹介しておこう。こいつは勇太、俺の三番目の弟子だ」
「三番目の弟子……父上! この者を弟子とお認めになったのですか!」
「そうだ。お前の弟弟子だ。よろしく頼むぞ」
「剣豪団、百二十名、父上の剣術に憧れ大陸全土から集まった弟子志望の剣客たち……その誰一人として弟子と認めなかったのに、どういう風の吹き回しですか!」
「風の吹き回しって言ってもな、弟子をとるなんてそんなものだろう。ピピッとくるものがあるんだよ」
「しかし、どこの馬の骨かも分からぬ者に、そう簡単に弟子と認めてしまったら剣豪団の団員たちがどのように思うか……」
「勇太はそこらの馬の骨ではない。それに剣豪団の団員は、お前とスカルフィの弟子として剣を学んでいるではないか、今更俺の弟子になる必要はない」
「ですが……」
「まあ、団員には俺から説明する。それより、俺も勇太も三日以上、飯を食ってないんだ。何か用意してくれるか」
「わかりました。すぐに用意させます」
そう言って清音は一人外へと出て行った。あの感じだと、オヤジの話に納得はしていないようだ。
「オヤジ、いいのか? 全然納得してなかったみたいだぞ」
「いいんだよ。お前のことを知ればあいつも納得するはずだ。それより、勇太。すまない。アムリアに送っていってやる約束だったが、どうやらすぐには無理そうだ。ターミハルは昔からの付き合いのある顧客でよく知っている国だが、エリシア帝国の大規模軍事行動くらいで、剣豪団に至急の救援を求めてくることは今まで無かった。それを考えると今回の依頼は余程の事が起こっているとみていいだろう」
すぐにみんなと合流したかったが、オヤジにも都合があるから仕方ない。それに弟子として剣を習い、お世話になったので、このまま、はい、サヨナラとなると義理に欠ける。
「オヤジ、よかったらその仕事、俺も手伝わせてくれないか?」
「なんだよ、気を使わなくていいんだぞ」
「いや、剣豪団の人たちは、俺の弟子入りをよく思わないんだろ。だったら納得するような姿を見せないと。それに後でアムリアまで送ってもらうんだから、その駄賃として手伝わせてくれ」
「ふっ、勇太の魔導機での戦いも見たいしな、そこまで言うなら手伝ってくれ。この仕事で、お前の修行の仕上げをするのも悪くない」
俺の提案が本当は嬉しかったのか、笑顔でそう言う。
「よし、そうと決まったら腹ごしらえだ。うちの飯は美味いぞ、もう食糧の残量を気にしないで思いっきり食べていいからな」
「今の俺はどれくらい食べるか想像ができないぞ。後で飯代を払ってくれと言っても遅いからな」
こうして、俺とオヤジは笑いながら二ヶ月共に過ごした洞窟を出た。
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