第206話 成長

まったくついていけなかったオヤジの動きに、少しながら反応できるようになっていた。転ばされたりする回数も減って、攻守に成長の兆しが見てくる。


「よし、その調子だ。攻撃は自分のリズムを刻め。防御は逆だ、相手にリズムを作らせるな」


オヤジが俺になにかを教えるためだろう、あえて分かりやすくトントントンと一定の間隔で攻撃を繰り出してくる。俺はその攻撃を受ける時、タイミングを変えて受けに変化をつけた。さらにイメージを膨らませ、攻撃を受ける振りをするフェイントを入れて攻撃を避け、相手のリズムを完全に崩す。


「そうだ! 常に自分のペースに持っていけ! 相手にペースを作らせるな!」


もちろん、オヤジはあえて引っかかってくれたのだろうが、戦いの流れを掴む感覚を実感することができた。


自分のペースで戦いが進むと、攻撃の組み立ても容易になってくる。足、腕、胴体、頭と、狙う箇所に変化をつけて、攻撃の速さやタイミングに変化をつけて攻撃を繰り出す。ほとんどの攻撃はオヤジに防がれるが、最後に、変則的な体勢からの足への攻撃が、オヤジの太腿に少しだけ触れた。


オヤジの体に俺の剣が触れたのはこれが初めてで、素直に嬉しかった。オヤジも自分のことのように喜んでくれる。


「今の攻撃は良かったぞ。特に最後の一撃は予想外で読めなかった」

「よし! もう少しでオヤジから一本取れるかな?」

「ハハハッ── いや、それは十年早いが、その辺の剣士相手ならいい勝負するくらいには成長しているぞ」


くそっ、やっぱりオヤジからみたらまだまだのようだ。今の一撃もあえて受けてくれたのだと思う。



オヤジは俺の成長を認めてくれたのか、その日から修行はさらに厳しくなっていった。木剣で容赦無く叩かれ、体中にアザが増えていく。


「いてっ!」


「その痛みは死の感覚だと思え! 痛みを感じた回数だけお前は死んでいるんだ! この木剣を真剣だと認識しろ!」


やはり俺も痛いのは嫌なので、木剣で殴られないように避けるのに必死になる。オヤジの言うように、木剣を真剣だと思うようにして、気持ちを引き締め直した。



「何だ、エリシア帝国と揉めてたのか」

修行後の晩飯どき、オヤジが酒を飲みながら俺の話を聞いて、そう言う。

「揉めたくて揉めてたわけじゃないよ。あいつら巨獣の封印なんて解いてたから仕方なかった」

「巨獣の封印だと、また御伽噺のような話だな」

「何だよ、オヤジ、信じてないのかよ」

「ハハハッ── そうじゃないよ。お前が俺の前に現れたのだって、まるで御伽噺のような展開だからな、さらに巨獣の封印なんて言われたらいい歳して胸躍るってものよ」


「エリシア帝国って大きな国なんだろ? そんなところと揉めたような人間を弟子にして平気なのか?」

「平気も何も、元々俺たち剣豪団もエリシア帝国とは色々あってな。揉めてるどころか完全に敵対してるから全然問題ない」


「敵対って、あんな大国とまともに戦争してるのか?!」

「まあ、俺たちは傭兵だからな、正確にはエリシア帝国と敵対している国の味方についてるだけだけどな。俺たち剣豪団には弱い方の味方に付くって鉄の掟があるんだ。だから大陸最強だとか言われてるエリシアは常に俺たちの敵ってことになる」

「鉄の掟……弱い方の味方にって、どうしてなんだ?」

「強い者が強い者の味方になってどうする。剣豪団は強い。だから弱い方に付くのは当然なんだよ」


オヤジが強いと言うくらいだから相当強いんだろう。無双鉄騎団も強いと思うけど、もし、剣豪団と戦ったらどっちが強いのだろうか……


「勇太、もし、お前のところがエリシア帝国と本気で戦うことになったら、俺に相談しろよ。力になるからよ」

「逆だ、オヤジ。そっちもエリシア帝国に苦戦しそうだったら俺に相談しろよ。無双鉄騎団は頼りになるぞ」

「ハハハッ── そうか、ならその時はよろしく頼むわ」


その余裕の笑いは、自分の傭兵団の強さに絶対の自信を持っているからだろう。俺も負けてはいられない。オヤジと一緒に豪快に笑って、自信を示した。

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