第205話 鍛錬

こうして、俺とオヤジとの修行の日々が始まった。


剣の道にはしっかりとした睡眠が不可欠のとのオヤジの考えから、かなり長めの睡眠をとり一日が始まる。起きると、目覚めの剣の素振りから始まり、それが終わると朝飯を頂く。


朝飯を食べながら思ったのだが、オヤジ一人で滞在する予定だったのに俺がきたことによって二人分の食糧が必要になった。食料は無くならないのかと心配になり聞いたのだけど、答えは予想外のものだった。


「もちろん、足らなくなるだろうな」


「えっ! じゃあ、考えて食べた方がいいんじゃないか?!」

朝飯は一日の活力になると、かなりボリュームのある食事をしている。二ヶ月は強制的にここから出られないわけだから、ちょっと考えて食べた方がいいと思うのだけど……


「なに、足らなくなってきたら考えれば良かろう。余裕を持って、一人分よりは少し多く持ってきているし、もしかしたら奇跡的に足りるかもしれん」


いや、単純に二倍消費するんだから、少し多く持ってきたくらいでは絶対足りなくなると思うんだが……そう思ったが、師匠が言うならと気にしないことにした。


朝飯の後は精神集中の修行である。日本の座禅のようなもので、リラックスして座って、なにも考えずにじっとしているだけの修行だが、寝たら怒られる。リラックスしながらなにもせず座っていると異常に眠くなる。それを我慢しようとするとリラックスできない。何とも見た目以上にキツい修行である。


その後は単純な体力アップの修行となる。岩を持ち上げたり、走ったり、飛んだりと色々やらされる。単純にかなり疲れるけど、精神集中の修行よりは体動かしている感があり嫌いではなかった。特に岩登りの修行は、なにかのアクティビティみたいで面白い。まあ、安全を配慮されているわけではないので、危険と隣り合わせで危ないのがたまに傷ではある。


午後には軽い食事をとって、その後は本格的な剣の修行となる。オヤジと木剣を使って直接剣を交えるのだけど、いや、このオヤジ、マジで強い。俺が必死に打ち込んでも、簡単にいなされる。


「必死に打ち込むのはいいが、敵の全ての動きを見てないと、簡単に隙を突かれるぞ。ほら、こんな具合に」

そう言いながら俺の足を木剣でポイと弾く。バランスを崩した俺は簡単に転倒した。


「ぐっ! くそ!」


「負けん気も大事だが、それを相手に知られてはダメだ。常に冷静を装え。相手に弱みを見せるな!」


俺は表情を隠して立ち上がる。そして息を整え、剣を構え直した。

「よし、いいぞ。冷静になれ、常に相手より一歩先を考えろ!」


この調子で5時間ほど剣を交える。凄くハードな修行だが、今まで経験したことない時間で楽しくて仕方なかった。


これで一日の修行は終了となる。この後は夜ご飯を食べるのだが、オヤジは夜ご飯と一緒に酒を飲み始める。酒が入るとこのオヤジよく喋る。色々と身の上を話してくれる。


「何だよ、オヤジ、傭兵団の団長なのか?」

「おう、そうだ。剣豪団って言う傭兵だんだけど、知らないか?」

「えっと……聞いたことあるような、ないような……」

「そこそこ有名だと思ってたが、まだまだだな」

「俺も傭兵やっているんだぞ」

「ほほう── そうなのか、どこの傭兵団だ」

「無双鉄騎団って名だ」

「無双鉄騎団か、聞いたことないけど、まあ、元々俺はその辺は疎いからな、知らなくて当然か」


お互い傭兵という共通点もあり、オヤジとは気が合った。酒にはあまり付き合えないけど、会話は尽きなかった。


「よし、勇太、俺の娘の婿にこい! 本当の息子になれよ」

酔ったからか話をしていたら急にそう言い出した。


「オヤジ、娘がいるのか?」

「おう、美人だぞ! 絶対に気にいるから婿になれよ!」

「悪いけど、俺には好きな子がいるからダメだ」

「ほほう、好きな子ね。別に婚約してるわけじゃないんだろ? だったらいいじゃねえか」

「いや、そういうことじゃないだろ」

「いいから、ここから出たら娘を紹介するからよ。いや、見たら絶対好きになるって!」


その日はしつこいくらいに娘を勧められた。普段はそうでもないが、このオヤジ酔うと厄介だな……

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