第204話 修行
「今、この時から俺とお前は師と弟子だ。師弟の関係は親子関係のようなものだ。俺は今からお前を息子だと思う」
「俺はヴェフトをのことをどう思えばいいんですか」
「どうとでも思えばいい」
そう言われて少し考えた。息子だと思われてるならやはりここは父親と思うべきだろう。
「それじゃ、父親と思う事にします」
「そうか、ならオヤジ相手にその言葉遣いはなっとらんな。親父と息子は他人じゃないだろう」
なるほど、他人行儀になるなってことだな。
「それじゃ、オヤジ、稽古をつけてくれ」
「そう、それでいい」
そう言いながらヴェフトは笑った。
「まずは今のお前の実力を見てやる。こいつを持って構えてみろ」
そう言って木刀のような木製の剣を渡してきた。俺は言われるまま、剣を持って構える。誰かに教わったわけではないけど、魔導機での実戦経験もあるからある程度の自信はあった。しかし、オヤジの評価は俺の思うものではなかった。
「想像以上に下手くそだな。まあ、その方が教えがいがあるってものだがな」
「構えを見ただけでわかるのか?」
「その質問をしてくるだけで、お前が何も分かっちゃいないってことは分かるってもんだ」
「どう言う意味だよ、オヤジ」
「お前、今誰に対して剣を構えた?」
「誰でもない。構えろと言われたから、ただ剣を持って構えただけだけど」
「お前は戦う相手もいないのに剣を構えるのか? 剣を構えるということは、相手を倒すためか、相手の攻撃に備えるためか、または相手に対して威嚇する行為なのか、いずれにしろ、すでに戦いは始まっているんだぞ。お前のさっきの構えは戦闘に備えていたのか?」
確かに俺は戦闘なんて考えていなかった。ただ、カッコつけて剣を持っただけだ……
「いいか、俺の剣技の基本は心技一体だ。どんなに剣を扱う技術があっても、戦う意思がなければ意味がない。剣を持つと言うことは常に戦いの準備をしていると言うことだ。剣を構えろと言われたら、相手を想像しろ、戦いに備ろ、それは修行の時でも同じことだ」
「わかった。もう一度やってみるから見てくれ」
俺はもう一度剣を構えた。今度は剣を構える相手を想像する。イメージするにはやはり知っている人物がいいだろう。どうせ戦うなら強い方がいい。相手として俺はアーサーを選択した。
アーサーの剣の練習はフガクの格納庫で何度か見ている。アーサーの技で一番脅威なのは突き攻撃だ。早く、一撃必殺の威力がある。俺の構えは自然と突き攻撃に備え半身になった。その状態でアーサーの突き攻撃を待つ。アーサーの突き攻撃はスピードも威力もあるが、その代償として攻撃の後に隙ができる。その隙を逃さないように剣をすぐ振れるように剣を持つ手を後ろに引き、構え直した。
「ハハハハッ── これは親バカかもしれんが、勇太。お前、才能があるかもしれないな。あの言葉だけで、それだけの構えができるようになるなら将来有望だ」
「邪魔するなよ、オヤジ。もう少しで華麗なカウンター攻撃で相手を倒すとこだったんだぞ」
「ふんっ、邪魔ではない、助けてやったのだぞ。お前は相手の初撃の鋭い突きを避けきれず、心臓を貫かれていた」
それを聞いて驚いた。俺の想像する相手がオヤジにも見えていたのか?!
「どうして相手が突き攻撃でくるってわかったんだ?」
「それだけお前の想像が良くできていったってことだ」
「想像は良いけど、構えは悪かったのか?」
「いや、中々良い構えだ。最初にしては十分だろう」
「だったらどうして心臓を貫かれたんだ」
「それは圧倒的な技量不足だ。心技一体と言っただろう。これからみっちり教えてやるから覚悟しておけ」
オヤジのその言葉に、俺は厳しい修行を想像して怖くなるよりも、どんなことを教えて貰えるのかワクワクする気持ちの方がまさっていた。
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