第201話 孤独へ
コックピット内の残存エネルギーがもうすぐ切れそうになっていた。僅かに灯っている灯が点滅し始める。
「もっと勇太と話をしていたかったですけど、そろそろ時間のようですね」
「フェリ、絶対に君をラフシャルに届けるよ」
「よろしくお願いします。今度はもっとゆっくり、お話ししましょう」
「絶対に約束だ」
コックピット内の灯が完全に消えてからではフェリを取り外すのが難しくなるので、俺は名残惜しいけど、フェリの本体を取り外した。ハンドボールほどの大きさなので、小型のバックパックにも余裕で入る。俺はフェリの本体をタオルに包むと、割れ物を扱うようにバックパックに収納した。
それから5分ほどでコックピット内の灯が消えた。一切の明かりがない暗闇がやってくると、一気に不安と恐怖が押し寄せてくる。
このままどうなってしまうのだろうか。永遠に海流に流され彷徨い、最後には干からびて死んでしまうのではないだろうか。その前に、激しく岩にぶつかってコックピットがバラバラになって外に放り脱されて溺れ死んでしまうのだろうか。先の読めない恐怖からか悪い事ばかり考えてしまう。
ダメダメだ、もっと楽しいことを考えよう。俺は良い思い出を想像した。
一度、幼馴染みの渚の計らいで、白雪結衣と映画を見に行ったことを思い出した。もちろん二人っきりではなく、渚も一緒だったけど、あの日は最高に楽しかったな── その日の本当の目的は白雪に告白することだったのだけど、それは失敗に終わった。告白するのも忘れるくらいに、三人で楽しんでしまったのだ。
白雪結衣の好きそうな映画を事前に調べ、渚が結衣を誘って約束を取り付けると、俺もその映画見たかったんだよという設定で強引に同行する流れに持っていった。
当初は映画の後に、渚が海が見たいと意味不明なリクエストをする予定になっていた。それじゃ俺、いいところ知ってるよと海の見える公園に連れて行き、渚が私、ジュース買ってくるね、と気を利かせてどこかへ行った隙に、俺、前からお前のこと……という流れを計画していたのだけど、なぜか渚のやつ、海が見たいじゃなく、カラオケ行きたいとか言い始めたんだよな。あれには焦った。目で怒りを伝えたけど、白雪がすぐに賛成したからそのままカラオケに行って……まあ、凄く盛り上がって楽しんだからいいんだけど……カラオケの後も渚はゲームセンター行きたいと言い出した。そのゲームセンターでも三人でメダルゲームに夢中になり、時間も忘れて楽しんだけど、結局、その日の渚は海に行きたいとは言わず、白雪には何も伝えられなくて告白は失敗に終わった。
あれはなんだったんだ……今思い出しても渚の行動が意味不明だ。それによくよく考えると、渚と白雪ってそんなに仲が良かったわけじゃないんだよな……よく、映画見にいく約束まで持っていったよな──
凄く楽しかったけど、何かこうモヤっとする感じの思い出だ。
それにしても白雪結衣はどうしてるだろうか、会いたいな……会って、ちゃんと告白したい。あれだけの人気者だし、きっとダメだと思うけど、気持ちだけは伝えたいよな。
日本でのことを思い出していると、他のクラスメイトたちはどうしてるだろうか気になる。コロシアムで俺に負けた原西たちはどうなったのかな、変なチームに入ってたみたいだけど、無事なのだろうか。獣王傭兵団だった堀部と岩村も、滅亡したカークスに雇われていたから、もしかしたら大変な目にあってるんじゃないだろうか……現在、クラスメイトで無事が確認できているのは渚と、メルタリアにいる御影守くらいなものだ。
今まで怒涛の勢いで時間が経過していたので考える余裕がなかったけど、やはりクラスメイトたちの現状は気になる。無事ならいいが、俺の今の状況を考えると、みんながみんな、平和に暮らしているとは思えないんだよな……
そんな考えをしていると、暗闇の中だからだろうか、眠気が襲ってくる。俺は目を閉じて睡魔に身を任せた。
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