第200話 遥か昔の話
コックピット内に残った残存エネルギーが無くなると、明かりすら失うそうで、まだ見えるうちに、装備の確認をおこなった。
「水はボトルに七割程度、食べる物は携帯食が二本と……後は小型バックパックにナイフとロープと……やっぱり灯が無いのは辛いな……」
「勇太、後、座席の下に私の記憶媒体があります。それをラフシャルに渡せば、私の機能は復活します。荷物にならないようなら持っていっていただけますか」
「おっ、それは大事なことだな、絶対持っていくよ。ちょっと待って、確認するから」
俺は座席の下にある蓋を開けて中を覗き込んだ。何やら複雑な機械がある中に、真っ白な球体を見つける。
「記憶媒体って、この真っ白な丸いヤツでいいのかな」
「はい。それが私の本体になります」
「わかった。電源が切れたら外して、絶対にラフシャルに渡すから安心してくれ」
「今、外しても良いのですよ」
「まだ、時間があるから、話し相手がいなくなったら寂しいだろう」
「──そうですね、それでは時間の許す限りお話をしましょうか」
時間だけはたっぷりある。俺は座席に戻り、気になっていた事をフェリに聞いた。
「ぶっちゃけ聞くけど、フェリって、ラフシャルの言っていた肉体を捨てたって言う、三人の弟子の一人なのか?」
「はい。私は大賢者ラフシャルの弟子の一人です」
「やっぱりそうか、そうじゃないかと思ったんだよな。フェリはどうして肉体を捨てようと思ったんだ」
「その時の私は肉体など必要ないと考えていました。肉体には老化があり、その機能を維持する為には食べると言う行為も必要になります。睡眠も必要ですし、最低限の体のケアも必要になります── まあ、要は肉体を維持するのが面倒くさくなったのですね」
「怖くなかった?」
「怖くはありませんでした。自分の技術や考えに自信を持っていましたので、だけど、周りからはかなり反対されましたね」
「やっぱりラフシャルは反対したんだ」
「いえ、ラフシャルは私の良き理解者でしたので数少ない賛成派でしたよ」
「へぇ〜そうなんだ」
「何かあっても僕が必ず助けるからって言ってくれました」
「ちょっと待って、もしかしてだけど……ラフシャルとフェリって……」
「あっ、恋愛感情とかそう言う関係ではなかったです。お互い研究第一でしたし、そもそもメティスの恋愛観は異常ですから」
「異常って、ちょっと聞くのが怖いな」
「彼は性別不問、種族不問、いえ、それどころか無機物にも愛を生み出せる。絶対博愛主義者なんです。条件さえ揃えば、どのような存在にも恋をしますから、同種族の女と言う理由だけでは恋愛対象になっているかどうかすら分からないのです」
「なんにでも恋愛感情を抱くってことか……ちょっとだけ怖いな」
「それさえなければ、本当に良い人なんですけどね。私の友人にも彼のファンは沢山いましたし、人気者だったのですよ」
「だから大賢者ラフシャルから後継者に指名されたんだ」
「はい。三人の弟子の中では一番の人格者だったのは間違いありませんでした。と言うより消去法でしょうか、兄弟子のルシファーは心を破綻させていましたし、私も自分の肉体を捨てるような人間ですから……」
「ラフシャルだけど、そのルシファーに殺されかけたって聞いたけど、何があったんだ?」
「剣で滅多刺しにされて川に捨てられたんです。本当によく助かりました。偶然、その現場を目撃した私の助手が川から助け出して、当時、開発中だった医療カプセルに入れて治療したんです」
「滅多刺しって、よほど恨んでいたんだな」
「だから助かったラフシャルは自分を死んだことにしたんです。ルシファーは今でもラフシャルが生きているとは思ってないでしょうね」
「もし、生きてるって知ったらどうなるんだ」
「すぐに殺しに来るでしょう。ルシファーにとってラフシャルは、1秒たりとも生きていて欲しくない存在なのです」
「厄介だな……」
「ルシファーの事は、同門として私にも責任があります。必ずもう一度封印してみせます」
「前も封印してたんだよな? 封印じゃなければいけない理由はあるのか?」
「ルシファーは殺しても存在は消えないからです。すぐに転生して復活するルシファーにとって、死は逃げ道の一つでしかないのです」
「あっ、そうか、転生しちゃうんだったけ。やっぱり厄介だよな」
そんな存在にもの凄く恨まれてるラフシャルも大変だよな……とっ、自分の今の状況を完全に忘れて、同情していた。
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