第202話 最悪の展開/結衣

エリシア帝国の帝都、帰国した私たちを迎える者はいなかった。調査隊としての凱旋を盛大に迎えて欲しいと思っていたわけではなかったが、一般市民だけではなく、公民の迎えさえなく、その雰囲気はお通夜のような感じすらしていたのだが、その感覚は間違っていなかった。


「結衣さま。メアリーさま。皇帝陛下がお呼びです」


帰るとすぐに皇帝から呼び出された。軍務大臣のイーオさんやユウトさんに協力を求めて面会を画策していたが、その手間も必要なかったようだ。私とメアリーはメシア一族とラフシャルの報告をする為に謁見室へと向かった。


「結衣。メアリー。ご苦労だった。調査隊の報告はすでにブリュレから聞いている。大賢者ラフシャルさまの復活は大儀であったぞ」


皇帝の椅子に座っていたのは、私の知っている皇帝ではなかった。その顔を見てメアリーが呟く。

「アムノ皇子……」


「おい、メアリー。アムノさまは三日前に皇帝に即位した。今はエリシア帝国の皇帝陛下だ。皇子とは失礼だぞ!」


名前もよく知らない高官らしい人物からそう指摘される。


「三日前に即位……皇帝陛下はどうなされたんですか!」

「前皇帝陛下はご病気でご逝去された。それだけのことだ」


皇帝が亡くなった……私たちが出発する日には体調が悪い感じもなかったけど……


「お主らから何やら話があるかもとブリュレから聞いたが、どんな話だ」


新皇帝であるアムノ皇子がそう聞いてくる。アムノ皇子がメシア一族だというのは聞いている。下手な話をすると命の危険すらあった。


「いえ、伝えたかったのは調査隊の報告だけです。それもブリュレ博士からすでにされているとの話ですので、私たちから話す事はありません」


メアリーも状況がよく分かっているので、危険を察してすぐにそう返答した。


「そうか、それならば良い。もう下がって良いぞ」


私たちは頭を下げて、謁見室から出ようとした。すると新皇帝が思い出したようにこう話した。

「そうだ、言い忘れていたが、今日からお前たちは新設の特殊部隊への編入が決まった。帝国が誇る、最強の魔導機部隊だ。最強を名乗るには心身ともに完璧でなくてはならない。その為に帝国医療研究所にて一ヶ月の検査入院を命ずる」


なぜかそれを聞いてゾッとした。メアリーも同じ気持ちのようで顔が青ざめている。


私たちに拒否権が無いのは、衛兵がゾロゾロと集まってきて取り囲み始めたことでわかる。


「帝国医療研究所まで護衛いたします」

衛兵の一人がそう言ったが、護衛ではなくただの連行では無いかと言いたくなる。


このまま帝国医療研究所に連れて行かれたら何をされるか分かったものじゃない。なんとかならないかと周りを見渡す。しかし、そこには私の知り合いは誰もいなかった。軍務大臣のイーオさんがいれば助けてくれたかもしれないのに……


私とメアリーが行くのを躊躇していると、急かすように衛兵が言う。

「早くまいりましょう。帝国医療研究所ではラフシャルさまがお待ちです」


やはりラフシャルの考えか……悪い予感は確信へと変わる。


しかし、魔導機の無い私たちにはどうすることもできなかった。ヴァリエンテも格納庫にいて助けてくれる事はない。そのまま衛兵に連れられて帝国医療研究所へと向かった──



帝国医療研究所では、衛兵の言うようにラフシャルが待っていた。彼は到着した私たちにこう言った。

「メシア一族は本当に優秀だ。1万年前の俺の命令を忠実に実行して、その準備をしてくれている。おかげでこうしてすぐに動くことができる」

「私たちに何をしようとしてるのですか」


私がそう聞くと、ラフシャルは笑みを浮かべてこう言った。

「別に悪いようにはしないよ。それどころか感謝したくなるような最高のプレゼントを贈らせてもらう」

「プレゼント?」

「ルーディア値は固定の数値ではないんだよ。潜在能力、ディメンションクラスを今から調べ、その最大値までルーディア値を引き上げてやる。少なくても数倍、クラスによっては数十倍もルーディア値が増幅する」


「ルーディア値の増幅……そんなこと可能なんですか」

「可能だ。古代文明では当たり前の技術だ。それをお前たちに施してやる」


そんなこと望んではいないけど、拒否することも不可能に思える。


「ふっ、心配するな、増幅による対価は軽微だ」

心配そうにしている私たちを見て、ラフシャルはそう言った。それにメアリーが質問する。

「対価とは何ですか?」

「魂の劣化だ。俺たちはそう呼んでいるが、心配はいらない。少し人間としての機能が低下するだけだ」


どういう意味かはわからなかったけど、その言葉に今までにないくらいの恐怖を感じた。

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