第192話 異界の門へ/エミナ
「こりゃ、派手に壊してくれたわね」
アルテミスの状態を見てライザがため息を吐きながらそう言う。
「どれくらいで修理できそう?」
「どれくらいって、ラフシャルは巨獣の封印の準備で忙しいし、私と他のメカニック総出で修理しても1時間や2時間で直るものじゃないわよ」
「そうだよね……」
「残念だけど、巨獣との戦いはエミナは不参加ね。暇になるなら整備を手伝ってよ」
「いいけど、私、整備なんてできないよ」
「知ってるよ、そんな事。冗談に決まってるでしょう。ここにいても邪魔なだけだから、上で飲み物でも飲んで休憩したら? もしかしたら誰かの代打で出撃する機会があるかもしれないんだから今のうちに休んだ方がいいよ」
ライザが冗談を言うとは思わなかったので本気にしたが、確かに私がここにいても邪魔になるだけだろう。彼女の言うように、代打での出撃に備えて休憩を取ることにした。
「それで、修理にはどれくらいかかるんだ?」
ブリッジに行くと、ジャンがアルテミスの状態を尋ねてきた。私はさっき入れた炭豆茶を飲みながら答える。
「かなりかかるそうよ、あれだけボロボロだと仕方ないけど、巨獣が復活して大変な時に何もできないのはもどかしいかな」
「そうか、今後はこんな状況に備えて予備の魔導機を1〜2機用意していた方がいいかもな」
確かに予備機があればこんな状況では助かる。だけど、それとは別に、そもそも愛機をあんな状態になるまで破壊されたのは反省しないといけないだろう。
「見えてきたよ、あそこが異界の門── 巨獣が湧き出る死の大地だ」
ラフシャルがそう言ったので、私もブリッジの窓から異界の門を見た。それは地面に広がる大きな円形の溝で、まだ巨獣の姿は見えないので死の大地のイメージとは結びつかない。
溝の周りに、いくつかの遺跡が見えた。ラフシャルはその一つを指定して、ライドキャリアを近づけるように指示を出す。
「ジャン、僕はこれから古代文明遺跡の防御システムを利用して、異界の門の封印作業に入る。作業には2時間ほどかかると思うけど、おそらく、それが完了する前に巨獣が湧き出てくる可能性が高いんだ。大変かもしれないけど封印が完了するまで、僕がいる遺跡を守ってもらえるかい」
「わかった。巨獣のことは気にしないで作業に集中してくれ」
ラフシャルはそう言って遺跡に向かおうとした。そこにメカニックの双子の兄弟が近づいて懇願する。
「大師匠! 俺たちに封印作業の護衛させてくだせえ!」
「頼みます!」
「君たちはアルテミスの修理があるだろう。自分の仕事を優先しなよ」
「ライザ師匠には許可を貰っています! 俺たちがいてもいなくてもアルテミスの修理の進行速度は変わらないので行って来いと言われやした!」
「たくっ、護衛と言っても相手は巨獣だよ。いくら強いって言っても生身の君たちではどうすることもできないと思うけどね……」
「大師匠を守る、盾や囮くらいにはなれますよ」
「巨獣が相手でも、命張ればればなんとかなりやす!」
おそらく彼らは命懸けでラフシャルを守るだろう。それを理解しているラフシャルは難色を示すが、最後には二人の勢いに押されて護衛を承諾した。
三人が遺跡に向かうと、ジャンはすぐに魔導機の準備をさせた。
「リンネカルロ、ロルゴ、ファルマ、アーサー、出撃だ。ラフシャルのいる遺跡に巨獣を近づけされるな!」
「わかりましたわ。この雷帝、巨獣ごときに遅れはとりませんわ」
「おで……ラフシャル守る……巨獣……倒す……」
「ちょっと怖いけど、頑張ります」
「このアーサー、リンネカルロ様の盾になりましょう!」
四人が出撃するのをなんとも言えない気持ちで見送る。何もできない自分がもどかしくてイライラしてくる。その気持ちを察してくれたのか、ジャンが私に指示を出してきた。
「エミナ、一番バリスタの操作を頼めるか。一番バリスタには、ラフシャルがエンチャント強化付けたみたいだから、高ルーディア値の者が操作すると威力が増すそうだからよ」
何か自分もできると思うだけで救われる。私はジャンの指示を二つ返事で引き受けた。
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