第193話 帰国へ/結衣

私とメアリー、それにエンリケも含め、生き残ったライダーはライドキャリアへと帰艦してきた。


帰艦した私たちに、ブリュレ博士が形だけの労いの言葉をかけてくる。

「お疲れさん、ラフシャル様の目的は達成されました。ですからラフシャル様が戻ってきたら直ぐにエリシア帝国へと帰ります」


「目的が達成されたと言うことは、巨獣の封印が解かれたと言うことですか」

「その通りです。もう少しでここは巨獣が溢れる地獄へと変貌します。そうなる前に撤退しなければ、私たちも巨獣の餌になりますからね」


「ブリュレ博士、あなたは本当に巨獣が復活して大丈夫だと思っているのですか、巨獣に対抗できる力が今の人類には無いと、博士自身もおっしゃっていましたよね」

メアリーの言葉に、ブリュレ博士は表情を変えることなく堂々とこう言い返した。


「私の言葉など、ラフシャル様のお考えの前では無きも同じです。ラフシャル様がいらっしゃれば人類は巨獣の脅威を恐れる必要は無いのです」


ここまでラフシャルに心酔しているブリュレ博士にはどんな説得も無意味だろう。メアリーもすでにエリシア帝国に帰国してからのことを考えているようで、今ここでブリュレ博士との論争を繰り広げる気は無いようだ。


それから少しすると、護衛に守られたラフシャルが帰ってきた。人類の脅威を解放した大事の直後なのに、その表情に変化はなく、まるで近所を散歩してきて帰ってきたかのように自然体だ。


「この地でのやるべきことは全て終了した。すぐに永遠の国へと向かへ」

「はい、すでに出発の準備は整っています」


すでに主従関係が構築されているラフシャルとブリュレ博士はお互いの考えを理解しているのか、言葉を多く交わさなくても話は進むようだ。


「それより、巨獣の封印の解除を邪魔してきた連中、一体何者でしょうか、エリシア帝国のハイランダーを二桁も撃墜するその戦闘力、巨獣の封印の解除にいち早く気づき、それを妨害してくる情報力、只者では無いように思えるのですが……」


「おそらくはフェリ・ルーディアに所縁のある者だろう。元々、あの遺跡群を設計して、巨獣と、この俺を封印したのはフェリだ。1万年の時で封印の力が弱まることも理解していただろうし、何かの準備をしていたとしてもおかしくは無いだろう」


「ならば、再度封印をされる危険は無いのですか?」

「ふっ、あの封印にどれだけの力が必要なのかわかっていないようだな。いくらフェリでも、そう簡単に封印を構築することは不可能だ。まあ、フェリ本人が実行すれば数年の簡易的な封印くらいは可能だろうが、その本人はすでに肉体が無い。巨獣が跋扈することになるあの地で、数字の羅列に何ができようものか」

「それは確かに、さすがラフシャル様、抜かりないようで」


私は巨獣の封印を邪魔した集団が何者か知っている。だけど、それを教える義理も気持ちもなかった。もし、彼らに無双鉄騎団の話をして、そこにいるエミナに危険が及ぶと考えたらゾッとする。


ラフシャルとブリュレ博士は巨獣の封印は解除され、ここでの活動は必要無いと思っているようだけど、私は無双鉄騎団の力を知っている。彼らが、このまま何もしないでいるはずがない。必ず、巨獣の封印をなんとかしてくれるだろうと思い、そしてそれを密かに応援していた。


ライドキャリアが帰路に着くと、私とメアリーは私の自室でエリシア帝国に帰った後の段取りを話し合っていた。おそらく、その動きをブリュレ博士などは把握しているだろうけど妨害する動きもなく、私たちを拘束する気配もない。それが不気味ではあるが、今は必要だと思うことを考えるべきであろう。


「メシア一族のこと、巨獣の封印を解いたこと、それらを皇帝に話せば、流石に彼らも終わりよ」

「だけど、皇帝への謁見を妨害されたらどうする?」

「確かにそれが一番の懸念点ね。メシア一族は皇室にも力があるようだし、国の中枢を掌握しているという話も嘘ではないかもしれないわ」

「軍務大臣のイーオさんに相談しましょうか、それと同じ地球人のユウトさんにも」

「そうね、その二人なら力もあるし信用できそうね」


こうして、私とメアリーの考えはまとまった。まずはエリシア帝国に帰国して、信用できる二人に相談する。いくらメシア一族でも、エリシア帝国軍務大臣と、大陸最強ライダーを相手には何もできないだろうと考えていた。

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