第190話 巨獣の復活/ジャン

「どうも外の様子がおかしいぞ……ラフシャル、何が起こってるかわかるか?」

大地は揺れ、大きな地響きのような音が鳴り響き、どう考えてもおかしいこの状況について博学なラフシャルに尋ねた。


ラフシャルは外の様子を見ながら動きを止めている。何かに気がついたのか、無表情だが、緊張した口調で衝撃的な結論を言った。


「残念だけど、巨獣の封印が解かれたみたいだ……」

「なにっ! 嘘だろう……封印の解除をするにはこの遺跡に入らなきゃいけねえんじゃねえのか!」

「……封印を解くには遺跡に入る必要があるのは間違いない。もしかしたらルシファーは、自分が封印される前に、こんな状況を想定して隠し通路を用意していたのかも……ごめん、あの狡猾なルシファーならその可能性はあった。もう少し僕が注意していたら……」


「チッ、まあ解かれてしまったもんは仕方ねえ、次をどうするかに切り替えよう。新たに封印をし直すことはできないのか?」

「1万年前、巨獣の封印は大陸全土の人類が一丸となっておこなった、一大プロジェクトだったんだよ。今のこの時代で行うには時間も技術も、何もかも足らなすぎる」

「じゃあ、どうすればいいんだ」

「1万年もつような封印は無理だけど、数年持ち堪えれる簡易的な封印なら僕だけでも可能だ。今は少しでも時間を作って、どうするか対応を考えよう」

「よし、その案で行こう! 俺たちは何をすればいいんだ」

「まずは巨獣が湧き出るポイント、異界の門へ行こう。早く行かないと巨獣が湧き出てしまう。そうなったら異界の門に近づくこともできなくなってしまうから急ごう!」


「わかった、すぐに全員をライドキャリアに収容しよう」


敵の狙いは巨獣の封印の解除だったのは明白で、それが達成されたのを確認したのか撤退していく。俺は全ての戦闘を中断してライドキャリアへ戻るように伝えた。


「エミナのアルテミスが動けなくて、オーディンだけで運ぶのは大変ですわ、誰か手伝いに来なさい」

全員撤退を伝えると、リンネカルロがそう報告してきた。


「アルテミスがやられたのか?!」

「すみません、不覚を取りました」

「いや、それより体は大丈夫なのか?」

「はい、機体はボロボロだけど、体は大丈夫です」


機体は優秀なメカニックがいるので修理できるから問題ない。それより人的被害は取り返しがつかないので気をつけなければいけない。


別行動している勇太にもこの事を伝える。


「勇太、残念なお知らせだ」

「どうした、何かあったのか?」

「巨獣の封印が解かれた」

「なっ!! ちょっと待て、それって大ごとだよな」

「そうだ、なのですぐに次の行動に移らないといけない。悪いけど、そっちの到着を待たないで次の目的地に向かう事になった」

「次の目的地ってどこだ」

「異界の門って場所らしい、悪いけど、直接そっちに向かってくれるか」

「わかった。だけど、場所がわからないぞ」

「ラフシャルが言うにはフェリが知ってるそうだ」

「フェリは何でも知ってるな……」

「俺もそう思う。とにかく異界の門では忙しくなりそうだ。もしかしたら通信する暇もなくなるかもしれないからそっちはそっちで臨機応変に動いてくれ」

「わかったよ、気をつけてな」

「そっちもな」


そう言って通信を切った。


「しかし、簡易の封印って言っても、あのエリシア帝国の連中に邪魔されないか心配だな」

「多分、それは大丈夫だと思うよ、ルシファーはここに僕がいるって知らないからね、普通の人間には簡易と言っても巨獣の封印ができるとは想像もしれないと思うよ」

「そうか、ならいいが……」

「まあ、ルシファーはすぐに次の行動に移るだろうね、だからさっさとエリシア帝国にいくんじゃないかな」

「次の行動って何だよ」

「1万年前、人類は一丸となって巨獣を封印したって話をしたろう。ルシファーが一番恐れてるのは、全ての人々が一つになる事なんだ」

「それってどう言う意味だ……」

「おそらく、ルシファーが次に行うのは大陸全土を戦乱の渦に巻き込む世界大戦を起こす事、一つになるなんてできないくらいに国々の関係をグチャグチャにするつもりだと思う」


「巨獣に、世界大戦、奴は本気で人類を滅ぼそうとしているのか……」

「だから誰かが止めないといけない。ごめん、無双鉄騎団には変な負担を掛けちゃってるね」

「ふんっ、こちとら人類相手の商売だ。商売相手を消されちゃ、たまったもんじゃねえよ。それにうちの連中は勇太を筆頭に、みんなお人好しだからな、おそらく負担なんて微塵も思ってないだろうよ」


俺がそう言うとラフシャルは少し微笑んだ。笑っている場合じゃない状況での、ほんの少しの喜びの表現だろう。

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