第188話 宿敵/結衣

ハッチはすぐに修理され、出撃の準備が整った。するとすぐにラフシャルから敵を叩くように指示が出る。


「全魔導機、出撃して、あのライドキャリアの勢力と戦闘してきてくれ。別に勝つ必要はない、派手に戦ってくるんだ」


「どう言う意味ですか? 勝たなくて良い戦闘に出撃する意味を教えてください」

メアリーの質問はもっともだ、勝たなくて良い戦いに命を掛ける意味はない。


「戦闘自体に意味がある、それだけ言えばわかるだろう」

「──戦闘は囮と言うことですか」

「ふっ、そう言うことだ。お前たちが派手に戦っている間に、俺は封印を解きにいく」

「遺跡の入り口を相手に押さえられているのにどうやって……」


「そんなことはお前たちは考えなくていい。命令通り派手に戦ってこい」


釈然としない気持ちのまま私とメアリーは魔導機に搭乗する。エンリケをはじめとする他のライダーたちはラフシャルに絶対の忠誠を誓い、彼の命令に喜んで従っていた。


「結衣、こんな戦いに命を掛けるのは馬鹿らしい、適当に戦った振りをしてやり過ごしましょう」

メアリーが個人通信でそう言ってくる。その提案に全面的に賛成した。


私たちが出撃すると、相手のライドキャリアからも魔導機が出てきた。数は5機、こちらより少ない。


だけど、私が目についたのは敵の数や質ではなかった……敵の中に空中を浮遊する魔導機があるのを見つけたのだ。それはエミナの仇、無双鉄騎団にいた青の魔導機に似ていた。もしかしてと思い、私はすぐに金色の魔導機を探した。


いない……エミナを殺した金色の魔導機はいない、無双鉄騎団ではないのだろうか……


「前の遺跡で戦った連中はまだ合流してないようね、新顔ばかりだわ、でもその方が助かるかも、あの連中はかなり強かったから合流されていたら厄介だったかも」

メアリーが不意に通信でそう言ってきた。と言うことはここにいない向こうの仲間がまだいるってこと……


「メアリー、あなたが遺跡で戦った相手ってどんなボディーカラーだったの」

「えっ、珍しい機体色だったわよ。赤い魔導機と、白い魔導機、それに金色の派手な魔導機の三機だったかしら」


やはり無双鉄騎団──そう確信すると、エミナがコックピットを貫かれて殺された瞬間が鮮明に思い出される。悲しい気持ちと、それに比例するように怒りが込み上げてきた。


私はその感情に任せて、孤立している緑の魔導機に急接近した。そして怒りに任せて攻撃を開始する。


無双鉄騎団── エミナの仇! 絶対に許さない!


そんな気持ちで戦っていたが、不意をつかれ、絶妙なタイミングでボウガンの攻撃が命中してしまう。そのボウガンの矢は特殊であったようで、機体が凍結していく。その凍結に気を取られている間に敵を見失ってしまった。


周りを探すが消えたのかどこにもいなかった。


「結衣、危ない!」

ヴァリエンテの声がして振り向く、敵は見えないが、何やら空気の揺らめきが見えた。その揺らめきに向かってヴァリエンテが体当たりを繰り出す。揺らめきは吹き飛び地面に倒れ、その場所に敵機が姿を現した。


倒れた敵にヴァリエンテが追撃しようと近づくが、彼の目の前に雷のようなものが落ちて邪魔をする。


さらに雷が私たちに向かって降り注ぐ。命中すると覚悟をするが、その雷が寸前のところで弾き返された。どうやらヴァリエンテが何かしたようだ。


現れた新手の敵は攻撃の手を緩めない。三つの雷球がこちらに迫ってきた。それをまたヴァリエンテが防ぐが、そのうちの一つが彼に命中する。


「ぐっ!」

「ヴァリエンテ!」

「大丈夫だ、これくらい問題ない」


エミナの仇である無双鉄騎団にヴァリエンテを傷つけられ怒りが再燃焼する。私は再度、緑の魔導機に攻撃を開始した。


怒りに任せてレイピアを繰り出す。さすがは無双鉄騎団である、かなりの強さなのは認める、だけど……私は負けない!


戦っていると、ふと妙な違和感を感じた。初めて出会った敵、初めて戦った魔導機、なのに……私はどこかでこの感覚を感じたことがある。


思い出すのは、まだ魔導機の操縦に慣れていない時のエミナとの模擬戦──彼女は私に戦い方を教えながら丁寧に戦ってくれた。彼女にほとんどの戦い方を教わったこともあり、私とエミナの戦い方はよく似ている……そうか……この敵もエミナに似ているんだ……私は違和感の正体に気がついた。


エミナとの思い出が浮かんで、さらに彼女の最後の瞬間も鮮明に思い出される。溢れ出てくる怒りは戦いに反映された。怒りに任せ、無我夢中で攻撃を繰り出し相手を追い詰めた。


気がつくと、もう敵機は動くこともできなくなっていた。


あなたの仲間が彼女にしたように私も……怒りの思考はレイピアの矛先を、コックピットに向けていた。


力を込めてレイピアを繰り出そうとした寸前、敵機とエミナの姿が重なりあう──それは敵の戦い方がエミナと似ているからなのか……それとも、エミナが私の行動を止めようとしているのかわからない。だけど、一つだけ確かなことは、もうこの敵機のコックピットを、レイピアで突き刺すことはできないと言うことだ。私はゆっくりと構えを解いてレイピアを下ろした。

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