第187話 絶命/エミナ

くっ……今の一撃でアイシクルボウガンを壊された。このままでは……


トリプルハイランダーの結衣に優位に立てる唯一の武器を失い、焦りと不安が溢れてくる。さらに得体の知れない獣のような魔導機、今の攻撃をみると、かなりの強敵なのは間違いない。


「エミナ、そいつはリーダーガーディアンだ、かなりの強敵だからリンネカルロに任せるんだ」


戦闘の様子を見ていたラフシャルが通信でそう言ってくる。これがルーディア値10万の怪物……


リーダーガーディアンが加速して迫ってきた。ボウガンが壊れているのでダガーを構える。だけどこのノーマルダガーで相手をするには、相手は強すぎる。やられる──そう思った瞬間、私とリーダーガーディアンの間に雷撃が落ちた。そしてリンネカルロのいつもの高飛車な声が聞こえてくる。


「あなたらしくわりませんわよ、エミナ、そんな獣に遅れを取るなんて」


そんなリンネカルロに、ラフシャルが注意を促す。

「リンネカルロ、相手は人工と言ってもルーディア値10万のエクスランダーだ、君がいくら強くても油断できる相手ではないよ」

「ふんっ、わかってますわよ、油断なんてしていませんわ、慎重、そして確実に仕留めて見せますわ」


油断していないと言っても、やはりリンネカルロの口調は自信に満ち溢れている。敵のルーディア値やその強さを目の当たりにしても揺るぐことない精神は尊敬に値する。


「テンペスト!」

リンネカルロは、すぐに広範囲の雷撃攻撃を放った。リーダーガーディアンだけではなく、結衣も範囲に入れた無差別攻撃だ。オーディンの強力な雷撃が結衣のエルヴァラに命中する想像をして胸に痛みが走る。しかし、リンネカルロの雷撃は、敵の上に現れた透明なシールドに全て吸収される。


「えっ! なんですのあれは!」

「リーダーガーディアンは防御シールドを展開できる。威力の弱い魔導攻撃は通用しないよ」

「くっ……ならば! トリプル・ライトニングですわ!」


三つの雷球がリーダーガーディアンに迫る。リーダーガーディアンはもう一度

防御シールドを展開する。バチバチと透明なシールドと雷球が激しくぶつかり合う。二つの雷球は弾け飛び四散する。しかし、雷球の一つはシールドを破り、リーダーガーディアンに直撃した。


だけどやはりルーディア値10万のエクスランダー、あのリンネカルロの雷球でもそれほどダメージを受けているようには見えない。


リーダーガーディアンとリンネカルロがそんな攻防を繰り広げているなか、結衣が動いた。私を倒そうと接近してくる。アイシクルボウガンが壊れてしまっては、格上の結衣に勝てる自信は全く無い。リンネカルロはリーダーガーディアンで手一杯で私のフォローをしてもらう余裕はないだろう。他の仲間はどうなのかと見ると、ロルゴ、アーサー、ファルマの三人で、ダブルハイランダー二人を相手に激闘を繰り広げている。とてもじゃないがこちらに手は回らないように見える。


なんとか時間稼ぎだけでも……覚悟を決めてダガーを構え、結衣を迎え撃った。


結衣のレイピアの初速は驚異的なスピードだ。予測していたからなんとか避けられたが、初見であの一撃を避けれる者がいたらその人物は化け物だ。


さらに二撃目をダガーで弾き返す。だけど、間髪入れずに次の三撃目が繰り出される。流石に避けきれず、鎖骨辺りに突き刺さる。私はエルヴァラの腹に蹴りを入れて、刺さったレイピアを引き抜く。やはり結衣は武器に対応する能力は高いが、体術への対応は苦手のようで不意の蹴りなどは有効のようだ。


蹴りで後ろに少し下がった結衣だったが、すぐに体制を立て直し、大きく踏み込んで接近してくる。良い間合いからのレイピアの連続突き、あれを受けては一溜りも無い、私はあえてレイピアの一撃目を肩に受けて、そのままエルヴァラに密着するように接近した。レイピアは肩に突き刺さり使えない。私はエルヴァラの首元に向けてダガーを突き刺そうとした。だけど、その動きは読まれていたようで、ダガーの攻撃は左手で受け止められる。そして単純な力ではアルテミスの倍はあるであろう、エルヴァラにギギッと軋む音を立てられながら押し返される。さらに、エルヴァラは力を入れてそのままアルテミスを投げ飛ばした。


「うっ!」

地面に叩きつけられた衝撃で思わず呻き声を上げる。


倒れたアルテミスに、エルヴァラから容赦ないレイピアの連続突きが襲いかかる。


肩の部位が弾き飛ばされ、胸を何度も突かれてボディーがボロボロに変形する。さらに片目を貫かれ、スクリーンが乱れる。なんとかコックピットは守ろうと両手で防ごうとするが、腕は連続突きの攻撃に耐えきれず、ぐちゃぐちゃに破壊された。


アルテミスは行動不能になっていた。もう何もできない……乱れたスクリーンには、とどめを刺すために大きく構えたエルヴァラが映っている。剣先はコックピットを狙っていた。


せめて、結衣が私を殺したと知ることがないように……私は最後の願いを心に祈った。

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