第186話 沈黙の戦い/エミナ

「敵の後方にバリスタを打ち込むぞ、魔導機隊は気をつけろよ」


ジャンの警告の後に、敵の後方にフガクからバリスタの艦砲射撃が行われた。結衣のエルヴァラの周辺に着弾して大きな爆発が起きる。私の心臓はキュッと収縮して胸が苦しくなった。


爆風からエルヴァラが飛び出してくると、少し安心してしまう。こんな状態で本当に結衣と戦えるのだろうか……


ロルゴのガネーシャが突撃してきた敵の先鋒を抑える。すでに上空で待機してアローを構えていたファルマは、ロルゴが抑えている敵に向けてサイクロンアローを放った。風の魔導に強化された矢が打ち出され、狙った敵機を、竜巻に巻き込まれてバラバラになる家屋のように粉々に粉砕する。


さらに接近してきた敵機の一機に、アーサーが得意の突進攻撃を放つ。ハイランダーにしては驚異的なスピードで一気に近付き、高い破壊力のドリルランスを突きだす。ドリルランスの命中した敵機は捻り切られるように機体を破壊される。


右から回り込んできた敵機にはリンネカルロのオーディンが放つ、非情な雷撃の餌食となる。もはや雷撃を受けた魔導機に搭乗するライダーは何が起こったのかもわからないうちにやられただろう。


私の前にも敵機が接近してきた。見知った母国のハイランダー専用機、ビランディ、多くのエリシア帝国のハイランダーが愛機とする優秀な機体だが、このアルテミスの敵ではない。さらにアルテミスにはラフシャルに強化されたアイシクルボウガンを装備している。近づいたビランディに対して、フリーズショットを放ち凍結させる。凍りついて動けなくなった敵機に倒して、容赦無くダガーの一閃でとどめをさした。


やはり無双鉄騎団が圧倒している。すでにエリシア帝国は結衣と二機のダブルハイランダー専用機のヴァリアプル、それと白い、ガーディアンのような機体……あれも魔導機なの? その四体だけになっていた。


結衣とだけは戦いたくはない、そう思ったのだけど、無情にも結衣のエルヴァラは私のアルテミスに向かってきた。


エルヴァラの鋭いレイピアの一撃が繰り出される。模擬戦で見たものとはまるで別物、本気の戦いでの結衣の一撃は威力もスピードも段違いであった。私は辛うじてその攻撃を避ける。


結衣と戦いたくない──ここで外部出力音で私だと名乗れば戦いは回避されるだろう、だけど、それでは問題は解決されない。巨獣の封印を解除する者と、それを阻止する者という立場は変わらないのだから──


やはり、このまま結衣が私だと知らないで戦った方が、お互いにいいのかもしれない……私はアイシクルボウガンを結衣のエルヴァラに向けた。


殺さないように倒す。それしか方法が無いと私は考えていた。


結衣はトリプルハイランダー、私はダブルハイランダーと、まともに考えたら勝てる相手ではない。さらに相手が死なないように戦うなど無謀でしかないと思うが、アルテミスにはこのアイシクルボウガンがある。驚異的な性能を誇るこの武器があればなんとかなるだろう。


私は至近距離からボウガンを放った。しかし、結衣は人間離れした反応でそれを避けた。やはり並の相手ではない。結衣はフリーズショットを避けてすぐに踏み込んで間合いを詰めてきた。そしてレイピアの連続攻撃を放ってくる。神速とも言える結衣のレイピアの連続突きを全て避けるなど不可能である。私はその攻撃を予測して、後ろへ跳躍していた。そして宙で二発目のフリーズショットを放った。


結衣の行動を読んでの攻撃は、結衣の動きを上回ったようで、フリーズショットはエルヴァラの左肩に命中する。被弾したエルヴァラの肩から徐々に凍結していく。


凍結に驚いてエルヴァラの動きが止まる。私はその隙に後ろに回り込み、結衣の死角に入るとアルテミスをステルスモードへと変更した。


アルテミスの姿を見失い、エルヴァラがキョロキョロと周りを探す。その隙に、ゆっくりとエルヴァラの後ろに回り込む──魔導機の弱点の一つ、首にあるエレメンタルラインの大動脈、そこを切断すれば結衣に危険が及ばずにエルヴァラの機能を停止することができる……私は勝利を確信していた。


だが、次の瞬間、強い衝撃と共にアルテミスは宙を舞っていた──長く感じた滞空時間が終わると、地面に叩きつけられさらに強い衝撃を受けた。バチバチと音を立ててステルスモードが強制解除される。


くっ……一体何が起こったの!


見ると、結衣のエルヴァラを守るように白いガーディアンがこちら睨みつけて立ち塞がっていた。

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