第185話 エミナの苦悩/エミナ

巨獣の封印の一つ、円形のドーム状の遺跡に私たちは待機していた。幸いなことに封印はまだ解かれてはいなかった。いつ、巨獣の封印を解いている勢力が現れてもいいようにその場で待機していたのだが……


「どうやら封印を解いてる連中が現れたようだぞ」


ジャンが外を見ながらそう皆に伝える。私もどんな連中なのか気になり外を見た。そしてその相手を見て絶句する。ライドキャリアに刻まれたマークは母国であるエリシア帝国のものだった。


「まさか……あれはエリシアのライドキャリア……」

「そうか、確かあの龍が八の字を書いてるマークは確かにエリシアのもんだったよな、巨獣の封印を解いてるのはエリシア帝国だったのか、エミナ、お前にも思うことがあるかもしれねえが、今回ばかりはこちらが手を引くことはねえぞ」


「わかってます。私も道理はわかる。相手が母国でも、巨獣の封印の解除は阻止するべきです」

「ならいい、エリシア帝国と戦うのが辛いなら、出撃しなくてもいいからな」

「いえ、逆に私の手で止めるべきだと思ったくらいよ」

「そうか……無理はすんじゃねえぞ」


ジャンは私の複雑な心境を理解してくれているようだ。母国と言っても、それほど思い入れのある国ではないが、それでも戦うとなると気が引ける。しかし、どう考えても今回はエリシア帝国の行動が間違っている、どんな理由があるにしろ、巨獣の復活などさせてはならない。


「よし、全員戦闘準備だ! 向こうのライドキャリアも戦艦タイプの戦闘艦だ、激しい撃ち合いになるかもしれねぇから気合入れろや!」


ジャンの命令に、艦内は慌ただしく戦闘の準備が始まる。乗員のほとんどがバリスタの発射準備を急いだ。


「リンネカルロ、ファルマ、ロルゴ、アーサー、私たちも出撃しましょう!」

「気合入ってますわね、エミナ、相手はあなたの母国のエリシア帝国なんでしょう。戦闘中に裏切ったりしないでもらいたいですわ」

「相手が誰であろうと、巨獣の封印の解除なんてさせてなるものですか、そんな心配してないで勝利の計算でもしてなさい。相手は大陸最強のエリシア帝国ですよ」

「私を誰だと思っているの、天下十二傑の雷帝リンネカルロですわよ。相手がエリシア帝国でも遅れを取るつもりはありませんわ」

「エリシアにも三人の天下十二傑がいることは忘れちゃダメよ」

「もちろん忘れてませんわ、風神ユウト、炎帝ロゼッタ、地王エメシス……もし、戦うことになったら、どちらが十二傑の中で格が上か思い知らせるだけですわ」

「それは頼もしいこと」

「ふんっ、さっさと格納庫に向かいますわよ」


あの三人がこんな場所へ派遣されることはまずないだろう。だから、実際リンネカルロに対抗できる者があのライドキャリアに乗っているとは考えにくい。戦力的には負けることはなさそうだけど──


私たちが出撃すると、敵のライドキャリアからも魔導機が出撃してきた。敵の数は八機、数はこちらが少ないけど、数的不利はリンネカルロがカバーしてくれるだろう。


敵はまっすぐこちらに向かってきていた。どの機体もハイランダー以上の精鋭のようだ。激戦は想像できるが、ユウトさんやロゼッタの機体は見えない、やはりリンネカルロがいるこちらが有利であろう。


だけど、後方から遅れて接近してくる機体、それを見た瞬間、私の胸はギュッと握られたように一瞬で緊張する。それは、私が予想していた最悪のシナリオの一つであった……、漆黒の機体、私のよく知っている人物の愛機であるそれは、エルヴァラと呼ばれていた。あれに乗っているのはただ一人……


「まさか結衣……嘘でしょう……」


エリシア帝国と戦う心構えはできていた。巨獣の封印を守る為には母国を裏切ってもいいと思っていた。しかし、親友と剣を交える覚悟はまだできていなかった。

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