第182話 巨獣との戦い/結衣
成り行きとはいえ、ガーディアンの主人になってしまった。これからどう呼べばいいのか分からず、私は白いガーディアンに名を聞いた。
「あなた、名前はなんと言うの?」
「俺に名前などない」
「だったらどう呼べば良いのかしら、困ったわね」
「好きに呼んでくれ、俺はもうお前のものなのだがらな」
そう言われて、私は直ぐに飼い猫のヴァリエンテの名を思い出す。飼い猫と一緒の名前だと怒るかもしれないけど、一度思い浮かべると、それ以外しっくりとこなかった。
「ヴァリエンテ、あなたをこれからそう呼ぶわ」
「うむ、わかった。俺は今日からヴァリエンテだ」
ヴァリエンテは『勇敢な』と言う意味がある。元は飼い猫の名前だけど、彼にはぴったりかもしれない。
「それより、俺はお前をなんと呼べば良いのだ」
「私は結衣、結衣と呼んでください」
「結衣……俺の主人、結衣……うむ、気持ちの良い響きだ」
何が良いのかわからないけど、ヴェリエンテは私の名前を気に入ってくれた。
ハッチはヴァリエンテに壊されたけど、なんとか操縦はできそうだった。ただ、言霊箱は壊れたみたいで通信ができない。
「すまぬ、壊してしまって」
「命があるだけで十分よ、なんとか動くし気にしないで」
コックピットから飛び出さないように、私は操縦席に紐で体を固定した。そしてゆっくりとエルヴァラを動かす。
通信ができなくなり、メアリーの状況がわからないから心配になり、早く上へと戻ろうとした──だが、その時、地響きのような不気味な獣の鳴き声のような音が響く。
「なに、今の音!」
そう私が言うと、ヴァリエンテが教えてくれた。
「あれは巨獣の咆哮だな……ここの封印が解けたから目覚めたようだ」
「えっ! 巨獣の封印が解かれたの?」
「完全には解けてないが、この遺跡に封印していた生き残りが這い出てきたのだろう」
巨獣なんてものと戦うのは遠慮したい。私はすぐに上へと上がることにした。しかし、私たちは落下してここまで落ちてきている。落ちてきた穴は遥か頭上で、ジャンプなどでは届きそうになかった。
「ヴァリエンテ、ここから上へ出る道はないの?」
「うむ、あるにはあるが、巨獣の咆哮の聞こえた方だが良いか?」
良くはないけど、そこしか道がないのなら行くしかないのかな。
「ちょっと聞くけど、巨獣って強いの?」
「個体によってまちまちだが、強い個体と出逢ってしまったら勝てる見込みは低いだろうな」
「そんなに……」
「まあ、そこまでの個体は、なかなかお目にかからないレベルだから気にしなくていいと思うぞ」
それならと、上へのルートを進むことにした。
それでも、できれば巨獣と遭遇なんて事はしたくなかったのだが、その希望は叶わなかった。見たことないような巨大な生き物が、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「あれが巨獣……」
硬い岩盤のような肌に、恐竜と昆虫を合わせたような不気味な風貌……六本足で歩行していて、動きも早そうだった。
「Bレベル個体だな、あれならなんとか俺たちでも倒せるだろう」
「Bレベル?」
「巨獣にはレベルFからレベルSSSまでの格付けがされているのだ、レベルS以上はまさに怪物レベルで、並の魔導機では歯が立たない」
「ちなみに私のこのエルヴァラは起動ルーディア値30000の魔導機だけど、並に分類されるの?」
「起動ルーディア値30000ならクラス6だな、安心しろ、並よりは少し上だ」
「少しってことはレベルSの巨獣には勝てそうにないのね」
「無理だな、レベルS個体と出会ったら逃げる事をお勧めする」
そんな会話をしている間も、巨獣はこちらに近づいてきていた。私とヴァリエンテは戦闘態勢に入る。
ヴァリエンテはすぐに動いた。高く跳躍して巨獣の上へと飛ぶ。巨獣はヴァリエンテの方に気を取られて上を向いた。私はその隙に巨獣の足に向かってレイピアで攻撃を放つ。ザクッと硬い感触がして、レイピアが巨獣の足に突き刺さった。
巨獣は痛かったのか、物凄い叫び声をあげて反応した。怒った巨獣は私を踏みつけようと、六本の足をジタバタさせて襲ってくる。
巨獣の気が私に移ると、ヴァリエンテは宙から激しく回転しながら落ちてくる。そして回転の反動を利用して、巨獣の首元にブーメランのように接触した。
ザクッとキャベツを包丁で切ったような音が響いて、巨獣の首がゆっくりとずれていき、完全に首は胴体を離れて地面に落ちた。
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